再会する姉妹
飛行場姫が春雨を連れてくるまでの間に、中間棲姫が今の春雨のことを説明していた。春雨はここに来るまでの間に心を壊しており、その結果、感情が溢れて黒い繭となって深海棲艦化を果たしたのだと。その心を壊した理由が、この艦娘達に必要な情報なのだろうと懇切丁寧に。
先程までは怒りに狂っていた海風も、自分の攻撃が一切通らなかったことで冷静さを取り戻し、他の艦娘達も海風の攻防を目の当たりにしたことで完全に萎縮してしまっていた。駆逐艦の砲撃とはいえ、殆ど無防備だった中間棲姫に、ありったけの弾薬を撃ち込んでも傷一つ無いとなったら、こうなってもおかしくはないのかもしれない。
中間棲姫が温厚だからこそ命があり、本気で怒りを買った場合、ここにいる艦娘は片手で捻るレベルで殺されてしまう。そう考えてのことだった。ここからは行動を慎重に行わなくてはならない。艦娘側の緊張は、今まで以上に膨れ上がっている。
「えぇと、そこまで緊張されると、私困っちゃうわぁ。最初はお互い見なかったことにしたかったんだけれど、ここにいる子の関係者だというのなら、どちらかといえば仲良くさせてもらいたいもの。そちらはどう考えているかはわからないけれど」
苦笑しながら説明を続けるのだが、艦娘達としてはその態度を改めることは難しかった。もう完全に蛇に睨まれたカエル。
だが、このままでは話が進まないと考えた千歳は、カラカラに渇いた喉から絞り出すような声で中間棲姫に問うた。
「春雨は……元の春雨とは違うと考えていいのかしら……」
中間棲姫は艦娘の心を失わないように処置したと話していたが、心が壊れているとも話している。何かが変化していると考えるのが妥当。
中間棲姫の話で理解出来たのは、春雨は心が壊れるほどのショックを受けていること、『孤独』をトリガーに発狂すること、そして外見は完全に深海棲艦であること。
「どうかしらねぇ……艦娘の春雨ちゃんを知らないから、一概に何もかも違うとは言えないけれど、少なくとも私達の考え方とは同調してくれているのよねぇ。戦うことなく、ゆっくりとここで過ごしていくことも楽しいと言ってくれているし。勿論、私が強要しているわけではないわぁ」
勇気を振り絞り、あの精鋭たる駆逐隊についていくことが出来ていた姉が、戦いから身を引いてスローライフを楽しんでいるという事実を聞き、妹達は喜んでいいのか悲しんでいいのかわからなくなっていた。
姉達に決して後れを取らず、完璧なサポートをこなし続けていた春雨は、多少無理をしていたのかもしれない。個性的な姉と並ぶとどうしても見劣りしてしまうかもしれないが、それでも努力と根性で完璧な戦いをし続けてきた。その春雨が、こういった形で引退するという事態に、少なからずショックを受けている。
「姉姫様、お呼びですか……?」
ここまで話したところで、ついに飛行場姫が春雨を連れてここまで来た。自分達の知る春雨とはやはりいろいろと違っていたため、妹達は息を呑む。驚きで誰も言葉が出なかった。
真っ白に染まった髪と肌。瞳も青白く輝き、もう艦娘では無いのだと嫌でもわからせてくる。服装が違うのは100歩譲れるが、足音が明らかに普通とは違うのもわかった。厚手のタイツで隠されているが、アレが義脚であることに気付けた者も少なくない。
「あ……」
ここまで来たら流石に妹達がここにいるとわかる。この身体になってしまったことでもう二度と会えないと察していた妹達の姿を目の当たりにしたことで、いろいろと失われつつあった感情が戻ってきた。
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