幸せアレルギー
海上航行をある程度こなし、続いて武装の訓練に入る春雨。海上航行のときは義脚が不要であるという域に辿り着いているため、今までとは視線の位置が違う。そのせいで、こちらも艦娘の時の感覚ではうまく扱えなかった。
「今やっておいてよかったよ。これ、艦娘の時と勝手が違いすぎて」
「わかるなぁ。私も全然勝手が違ったから、最初はすっごく苦戦したわ」
「ジェーナスちゃんは……ねぇ。艤装が艤装だし」
航行用の主機から追加で、武装も構築した春雨だが、魚雷発射管は腰の両サイドに構築された生き物のような舷外浮材のさらに外側に最初から備え付けられているため、新たに手に入れたのは主砲のみ。
左手を包み込むように構築された主砲は、艦娘時代に使っていたものよりも若干小型化されているのだが、威力は地味に上がっているという深海棲艦ならではの装備。
それを撃つのは流石に問題があるため、構築の段階で模擬弾──砲弾がほぼ水風船と同等──にする方法を薄雲に習うことで事無きを得た。そのおかげで、ジェーナスがその強固さを利用して的役を買って出て、砲撃訓練と洒落込んでいる。
「そろそろお昼だし、今日のところはとりあえずこんな感じでいいんじゃないかな。海の上を疾ることも出来るようになったし、砲撃もある程度出来るようになったから、覚えておかなくちゃいけないことは覚えたよね」
「そうね。これならいざって時に戦えるわ。まぁ、その時はこの私の強固な艤装でみんなを護ってあげるけど!」
「あはは、心強いよジェーナスちゃん」
この訓練により、3人はより強い絆で結ばれたようだった。相互監視による孤独の回避は大成功と言える。春雨と薄雲は孤独感に苛まれることもないし、ジェーナスは自己嫌悪に囚われることもない。
3人が3人、自分のことをどうでもいいものとして扱っている分、仲間に対する思い入れは異常に強い。だからこそ、この相互監視は思惑通りに運んでいるのだろう。
「ま、私がここに来てからはそういうこと何にも無いのよね」
「この施設は平和そのものだから、こういう訓練も宝の持ち腐れになる可能性は全然あるよ。覚えておくだけ」
「それならそれでいいわよね。わざわざ戦いに行く必要もないし」
艦娘の時ならば考えられないような言葉であるが、それには春雨も同調していた。戦わなくていいのなら戦わない方がいい。今が平和ならそれでいいと。
春雨だけではなく、薄雲もジェーナスもこの施設で適切な処置を受けたことで、心は壊れているが艦娘の心は失わずに深海棲艦化出来ている。しかし、身体に心が引っ張られている部分が一部あった。
それが、人類の平和のために戦禍に身を置くことを二の次にすること。艦娘は率先して人類に味方し、協力して侵略者たる深海棲艦を撃破するために尽力するのだが、戦いそのものがトラウマのようなものである春雨達は、そもそも戦わないという選択肢を優先的に取ることが出来るようになっていた。
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