ハーメルン
呂布を名乗るウマ娘
6章:逆襲(ぎゃくしゅう)

 最強であるセキトの才能を輝かせてやれなかったのは、全部私のせいだ。
 責を取るべきは、腹を切るべきは私だ。

「庇うな……」

 セキトが敗北したのは私のせいだ。

「―――オレ様を庇うなッ!!」

 首根っこを掴まれ、セキトの顔付近まで引き上げられ、上目遣いで見上げる形になる。
 そこで私は初めてセキトの顔を見る。
 怒っていると思っていた。
 だというのに、彼女の表情は。

 今にも泣きだしそうな顔だった。

「オレ様は…オレ様は…! 誰かに庇われる程……弱くない…弱くてはいけないのだ……」

 血か涙か、ポツリとしずくが私の頬を濡らす。
 いつもの、どこまでも強者の自信に満ちたセキトは居なかった。
 居るのは、迷子になって不安で泣き叫びたいのに、必死に我慢している小さな子供。

「オレ様は最強だ…天下無双だ。でなければ…また守られる…また庇われる…また失う」

 ブツブツと自己暗示をかけるように呟くセキト。
 今にも壊れかけになっているのが、医療の専門家でない自分でも分かった。

 セキトを守るために必要なのは、彼女の言葉を肯定してあげることだろう。
 いつものように、君こそが天下無双だと言ってあげればいい。
 だが、きっとそれではダメなのだろう。

「何を…?」

 グッと足に力を籠めて、セキトに掴まれていた状態から脱出する。
 そして、逃げられないように彼女の肩を掴んで真正面から言い切る。


 セキト、今のキミは―――弱い。


「陳…宮…?」

 嘘だ。
 あなただけは自分の味方だと信じていたのに。
 裏切り者ッ!

 そんな絶望の想いがありありと籠った視線が私を貫く。
 だが、そこで引くことはしない。

 私達は今の関係ではダメだ。先に進めない。
 新しい関係を築くために、今までの全てを壊す必要がある。
 だから、教えて欲しい。

「何を…?」

 セキトがなぜ、病的なまでに、庇うこと守られることを嫌うのか。
 そして、きっとその根本にあるだろう出来事。
 ―――父親の死を。

「…………聞いても、面白いことなど何もないぞ」

 それでも知りたいのだ。
 君の全てを。

「貴様になら……いいだろう。馬鹿で愚かで間抜けで、おまけに貧弱なガキの話を……してやる」

 普段は絶対に見せない弱々しい声で。
 怯えと恐怖の混じった顔で。
 ポツリポツリとセキトは語り始める。



「13年前のある日……オレ様は―――父親を殺した」





『ねえ、パパ! パパ!』
『どうした、セキト?』
『おおきくなったら、セキトはパパのおよめさんになるの!』
『ハッハッハッ! オレ様のお嫁さんか! それは楽しみだな!!』

 ―――子どもの頃はパパに恋してた。

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