8章:天地迅
「放送席、放送席。こちら見事、天皇賞春を制したシンボリルドルフ選手のインタビューになります。まずは天皇賞優勝おめでとうございます!」
「ありがとうございます。これも応援してくださるファンや学園関係者、それに常に傍で支えてくれるトレーナーのおかげです」
天皇賞春の勝者、シンボリルドルフへと数えるのも馬鹿らしくなる程のマイクが向けられる。
無数のフラッシュは、もはやビームか何かと思いたくなる程だが皇帝は身じろぎ1つしない。
民草が偉大なる皇帝の前にくれば感動のあまり、我を失うのは当然のこと。
それを許してやるのが王としての器というものだとでも言うように。
「大阪杯に続き、ミスターシービー選手を下してのG1連勝。そして、大阪杯、天皇賞春とくれば、狙うは宝塚記念での春三冠の偉業だとファンの間では早くも期待の声が寄せられていますが、ズバリ今後の展望はどのようにお考えでしょうか?」
「展望と呼ぶかは分かりませんが、質問にお答えする言葉があるとすれば1つ──―無論だ」
シンボリルドルフの強く言い切った言葉に、取材陣からは一斉に声が上がる。
やはりか、今度の号外はこれで決まりだな。
そんな声を聞きながら、ルドルフは内心で1人ほくそ笑む。
この流れならば、私が期待している質問も必ずしてくるだろうと。
「素晴らしい意気込みです! 私、1ファンとしての情熱が抑えきれません!!」
「恐悦至極。楽しみにしていただけるのなら、私も喜ばしいことです」
「しかし、宝塚記念となれば今回は出走しなかったマルゼンスキー選手、そしてセキト選手といったライバルが出走してくるかと思います。特に今回、本命と言われていたにも関わらず不在のセキト選手ですが、もしや大阪杯での怪我が良くない方向に向かっているのではないかと噂になっております」
今回の天皇賞ではマルゼンスキーとセキトは出走していない。
間近に控えた“ヴィクトリアマイル”に出走予定のマルゼンスキーはともかく、セキトの方は音沙汰がない。
今まで、無秩序にレースに出走していたセキトがピタリと出なくなっている。
これは何かトラブルがあったのではないかと、見る関係者がほとんどだ。
そして、この件について自分も何かを聞かれると考えていたルドルフの予想通りだ。
「まず初めに、セキトはすこぶる元気です。皆さんが思っているような事態にはなっていません」
ハッキリと言い切るシンボリルドルフ。
その物言いに今度は驚きの声が上がる。
いくらライバルとは言え、他陣営のウマ娘の状態に対してそこまで言い切れるのかと。
「あの……それは本当に?」
なので、当然記者達は疑ってかかる。
だが。
「──―私の言葉を疑うか?」
一蹴される。
たった一言で、あれ程ざわついていた記者達は水を打ったように静まりかえる。
誰もが皇帝への失言は死に値すると悟ったが故に。
「ああ、威圧するつもりはなかったんだ。すまない。だが、セキトの状態は今言った通りなのは事実だ。何も心配することはない。そう、何も」
普段の礼儀正しい敬語は消えた。
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