9章:天下無双
三国志の英雄、軍神関羽の武器である。
『強い! 強すぎるぞッ! セキトッ!!
皇帝も! 怪物も! 世界の並み居る猛者達も! 誰も追いつけないッ!!
我に並ぶ者無しと、先頭を駆ける姿はまさに!!
―――天下無双のウマ娘だぁあああッ!!!』
先頭でゴールを駆け抜けたセキトに万雷の拍手が降り注ぐ。
天上にも届くような歓声の中、セキトはキョロキョロと観客席を見渡す。
『セキト! ジャパンカップ連覇の偉業を達成ですッ!! もはや誰も文句を言わないでしょう。天下無双の称号は彼女にこそ相応しいと!! 天下無双コールが会場の空にまで響き渡っています!!』
『見事です! 本当に強い走りでした! ……おっと、セキトが観客席に駆け寄って行きますね。トレーナーでも探しているのでしょうか?』
そして、お目当ての人物を見つけたらしく、喜び勇んで観客席に飛び込んでいく。
そこで、驚いたような嬉しそうなような表情をしているのは、トレーナーである陳宮と。
夫の遺影を抱えたセキトの母だった。
「ねえ、ママ………パパ、ちゃんと見てた?」
「ええ…ええっ……ちゃんと見てたわよ。セキトが天下無双になるところ……パパと一緒に…っ」
子どもの頃、レースで1番になって帰ってきたあの時と同じように。
でも、あの時とは違って子どもは大きくなって、父親も遠い空の向こうに行ってしまって。
色々と変わってしまった。
それでも。
「パパ……褒めてくれるかな?」
「パパがセキトを褒めなかったことなんてないでしょ?」
「うん……そうだね」
1番になって褒めてもらう嬉しさは変わらない。
セキトは蒸気した頬ではにかみ、父の遺影を胸に抱く。
そして、雲一つない空に向け、ポツリと呟くのだった。
「聞こえる、パパ…? みんなの声が。
オレ様を…ううん…セキトのことを―――天下無双だって言ってる声が」
セキトは真っすぐに空を見上げ続ける。
まるで、その瞳から涙が零れないようにするように。
次の日のスポーツ紙の一面はセキトのそんな姿を飾られることになった。
そして、その見出しにはこう書かれていた。
―――人中の呂布、馬中のセキト。
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