第10話 ネギ+アスカ=?
停電になった女子寮内を桜咲刹那は飛ぶように走っていた。一歩一歩が大きすぎて半ば半分飛んで目的の部屋に到着した刹那は、片手に携帯を持ちながらドアを開けた。
「お嬢様!」
ドアを開けた先の部屋は停電中なので当然のことながら暗かった。室内にいるべき人間は二人でなければいけないのに、刹那が見つけたのは一人だけだった。
「せっちゃん」
灯りもない室内で布団に包まっていた木乃香は、入って来た刹那がダイニングで携帯を開いた灯りで顔が見えたことに安心したようだった。
布団から出て来て縋りついてきた木乃香をしっかりと受け止める。
「大丈夫ですか、お嬢様」
「明日菜が急に飛び出してって怖なってな。呼んで迷惑やった?」
「何時でも遠慮なく呼んでくださって結構です。寧ろ、呼んでください」
ぎゅ、と強く抱き付いてくる木乃香に緩んだ顔をした刹那を見れば同室の真名も失望すること間違いなし。既に知っていて諦めているかもしれないが。
「明日菜さんはどうされたんですか?」
「分からんねん。布団のところで誰かと話してみてたみたいやねんけど誰も部屋には入ってきてないし、止める前にあっという間にどっかに行ってしもうてん」
「まさか……」
刹那には心当たりがあった。この部屋に来る前にネギ達の知り合いというオコジョ妖精が助力を求めて来て、気持ち的には助けたいがアーニャから事前に助太刀無用と止められていたので断っていたのだ。
一般人の明日菜にも同様に助力を求めに来たようだ。様子からして助力に応えて行ったのだろう。
「なにか知ってんの?」
「いえ、分かりません」
刹那にはそうとしか言いようがなかった。
「やっぱアスカ君達のところに行ったんやろうか」
刹那の表情の僅かな変化から明日菜の行き先を悟った木乃香は心配そうに窓の向こうを見た。月明かりを取り入れる為に開けられているカーテンのお蔭で、外の様子が良く見えた。
「恐らく」
頷いた刹那にはアーニャに止められている以外に助太刀に行けない理由があった。それは木乃香も同じやった。
「大丈夫やろか。千草先生に止められてなかったらうちも行けたのに」
「天ヶ崎先生はお嬢様の身を案じておられるのです。自重して下さい」
「歯痒いなぁ。うちの立場なんてお父様やお爺ちゃんの血縁ってだけやのに」
この新学期から関東魔法協会の支部の一つがある麻帆良学園都市に関西呪術協会から留学生としてやってきた天ヶ崎千草。彼女が麻帆良に送られれてきたのは、木乃香が己の立場と魔法を知ったことから家庭教師としての一面もある。
半月で授業は始まっていて、彼女の家に出入りする木乃香に付き添っていた刹那は同じように千草の家に出入りしていたアスカ達がエヴァンジェリンと戦うのを聞いてしまったのである。明日菜に詰問されて割とあっさりとゲロッてしまったのは刹那の迂闊であった。
『エヴァンジェリン達の戦いに首突っ込んだら呪いかけるから。うんと苦しむようなやつな。女の尊厳奪う方向の』
陰陽師の先生である千草に禁じられ、齧っただけの刹那では本職が本気で呪いをかけてきたら跳ね返すことは難しい。やると言ったらやる女であることは普通の教師生活や陰陽師の先生として見て来た刹那では逆らいようがない。普段はおっとりしている木乃香ですら逆らおうとはしないのだから大概である。
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