第14話 正逆
このハワイに来ているのは、他のクラスとの希望が重ならなかったので3-Aのみ。
日本国内ならまだしも親しみ深いハワイといえど海外である。麻帆良女子中等部で最も問題を起こしやすいと考えられている3-A。しかも、担任と副担任はまだ新人。補佐が二人ついているが、こちらも二ヶ月早いだけでまだ新人の領域で更に子供。満場一致で学年主任の新田の同行が学年会議で決まったのであった。
女性教師に女生徒ばかりなのだから新田よりも源しずなの方が良いのではないかとの意見はあったが、やはり3-Aを抑えられるとしたら新田という意見が大勢を締めた結果である。
海水浴行く少し前、チェックインしたばかりのホテルで新田は早速困った事態に陥っていた。
「お願いします! 行かせて下さい!」
3-Aの生徒達が渡された鍵を持って部屋に向かったのを見送った後、アーニャは荷物をネギに任せて新田に直談判していた。
「生徒達が海水浴に出ている時間だけでいいんです。昔の友達がこの近くに住んでいて、この機会を逃したら何時になるか」
集団行動が原則である修学旅行において不躾で、先生として最低の選択であることはアーニャも重々承知している。
その上で譲れない気持ちが彼女の中にはあった。
「しかしだな。仮にも教師たるものが独自行動をするのを認めろというのは」
当然のことながら新田はアーニャの希望を受け入れられずに渋い顔をした。
そんな新田の後ろから新田の分の荷物を置いてきたネカネ・スプリングフィールドと天ヶ崎千草が現れた。
「どないしはりました?」
「アーニャがなにか粗相でも?」
「いや、そういうわけではないんだが」
新任とはいえ、和洋の美人二人に問われた新田は困ったように頭の後ろを掻いた。
男の性として美人の女に弱いというのがある。新田も御多分に洩れず、普通よりかはマシであっても弱かった。特に美人で若いネカネと千草の二人に同時に話しかけられると目のやり場に困る。
「私が海水浴の間だけ友達に会いに行かして欲しいってお願いしてるとこ」
新田がどういうべきか困っているとアーニャが先に言ってしまった。
「友達ってナナリーちゃん?」
「手紙をくれたんだけどおかしくて、様子だけでも確かめさせてほしいの」
ん、と差し出されたエアメールをを受け取ったネカネは、中に入れられている便箋を取り出して読み出した。
横から千草が覗き込んだが英語で書かれているのを見てあっさりと止めた。
千草の英語能力は学生時分で止まっている。辞書もなしに手紙の英文を訳せるほど達者ではない。
英語圏のネカネは当然ながら手紙を読むのは苦にならない。最後まで読み切って便箋をエアメールに直す。
「私も頑張りますって書いてるあるだけで、あの子にしては前向き過ぎる文章だけど」
ナナリーと面識の深いネカネは内容に若干の不審を覚えながらもアーニャにエアメールを返した。
「それって二週間前に届いた手紙なの。それまでに何通も出してるのに、来た手紙には最初に出した内容に対する返事しか書かれてないのよ。どう考えてもおかしいわ」
「確かに変ね。あの子なら届いた手紙にはきっちりと返事を毎回書くはず。もしかして手紙をちゃんと渡されていないのかしら?」
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