第20話 挑む者
村がゲイル一行の襲撃を受ける少し前。大婆に村に入れてもらえなかったネギ達は、村から離れた森の中で待ちぼうけをくらっていた。
舗装なんてされていない獣道の中で待つことを強いられた中で最初に我慢の限界を迎えたのは犬上小太郎であった。
「遅い」
森のど真ん中にある大岩の上で胡坐を掻いて座っていた小太郎は、イライラとした感情を隠しもせずに吐き出した。
同じ思いを抱いても一行の面々は自制心に長けているので、不機嫌そうな小太郎の呟きに言葉を返す者はいなかった。ただ一人の例外を除いて。
「黙っててくれないか、さっきから何度も何度も。こっちまで移って来る」
「おい、兄貴」
黙って瞑想し、時折瞼を開いて大きく溜息を吐いてはまた瞑想を繰り返していたネギは小太郎に文句を言った。
カモが諌めようとするが口に出した言葉は戻らない。言われた小太郎は待ちぼうけを食らってイラついていたところなのでカチンときた。
「おい、ガキ」
「誰がガキだよ。僕と君は同い年じゃないか」
「ガキにガキつって何が悪いねん。口だけはよう回る奴やな。俺に舐め取った口を聞いとったらシバくぞ」
「やれるものならやってみろよ」
「ちょ、二人とも待てって」
売り言葉に買い言葉。カモが止めようとするが二人は既に臨戦態勢。
「喧嘩売るいうんか。退屈しとったところや。喜んで買ったる」
「吹っ掛けて来たのは君の方じゃないか。人聞きの悪いことは言わないでくれないか」
論理派と直感派は昔から仲が悪いと言ったのは誰か。この二人はアスカがいないと相性が悪いようで、直ぐに一触即発の状況になってしまった。
拳を握り締めると小太郎と、杖を持って立ち上がったネギが睨み合う。その間に入ったのは茶々丸と刹那だった。
「お二人とも喧嘩しないで下さい」
「こんな所で問題を起こせば島から追い出されます。矛を収めて下さい」
小太郎には刹那が、ネギには茶々丸がそれぞれ抑えにかかる。
二人ともが小太郎とネギよりも上位の実力を持っているので力尽くで離される。相手の言葉が頭にキタだけで本気で諍いをしたわけではないのでされるがままに任せる。
「元気でござるな、二人とも」
「今の状況を見て呑気でいられるお前が凄いと思うよ、私は」
「平常心でござるよ平常心」
やんちゃな子供を眺める老人のような雰囲気を醸し出す楓に、こいつは大物だなと思った真名は単純に何も考えていないだけではないかと勘繰った。限りなくどうでもいいことなので直ぐに忘却したが。
小太郎とネギは互いのことなんて見たくないとばかりに背を向ける。
「「ふん」」
同族嫌悪の逆。対極過ぎて馬が合わないのか。この二人は両方に理解のあるアーニャか耐性のあるアスカがいないと衝突してしまうようだ。
話を逸らす意味も込めて茶々丸が先のネギの行動を思い返しながら口を開いた。
「先程、何度も溜息を吐かれていたようですが」
「頭の中で敵との戦闘をシュミレーションしていたんです。完璧とは言いませんが、ぶっつけ本番で戦うよりかはマシと思って。ですけど」
「結果は思わしくないというわけですか」
コクリ、と頷いたネギに背中を向けていた小太郎は犬耳をピクリと震わせた。だが、何も言うことなく悔しげに唇を噛んだ。
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