第8話 新学期パニック
『きゃあっ』
とある少女が夕暮れに染まる町を歩いていると、突然吹いた風に長めのスカートが捲くられて悲鳴と共にスカートを抑えた。だが、直ぐ横を中学生ぐらいの男子二人が横を通りかかったのに見向きもしない。このぐらいの年齢なら老女のスカートであっても思わず視線が移ってしまうはずなのに、だ。
『うう…………』
皆の周りに悪い子じゃないけどちょっと目立たないと言うか、存在感がないと言うか。いるのかいないのか分からない子っていないだろうか。大体いるだろう、クラスに一人くらいそういう子って。実は少女もそういうタイプの一人だった。
なにせ…………幽霊だから。
仕方ないと言えば仕方ないかもしれない。幽霊だから。
少女―――――相坂さよは地縛霊を始めて60余年になる。だけど、幽霊の才能が余りないらしくてイマイチ存在感がないって言うか、あんまり気付いてもらない。あまりにも存在感がなさすぎて、どんな御払い師や霊能者にも見えない筋金入りである。
『ひっ………誰ですか!?』
それに、カタンと机が鳴るだけで驚くぐらいにとっても怖がりで夜の学校は何か出そうで怖すぎるという理由で、最近は朝まで近所のコンビニやファミレスで過ごしたりしている。幽霊なのに夜の学校が怖いとはこれ如何に。地縛霊なのに学校の近くなら出歩けるという摩訶不思議。深夜のコンビニって何か安心しますよね、とは本人談。
幽霊としても駄目駄目だと感じている彼女は、只今彼氏ならぬ友達募集中。本人としても相手を怖がらせるだけで、駄目だとは分かっている。性格は暗いし幽霊だし…………と考えながら、いくら幽霊でも何年も話し相手がいないとちょっと寂しかったりする。
『明日から新学期か』
薄暗い教室である。窓の外は太陽が沈んでいき日没が近い。人気のない寂し気な明日から3-Aになる教室で、本来なら誰もいない学び舎に声ならぬ声が響く。
『誰か私に気づいてお友達になってくれないかな……?』
寂くて変わりのない日常に小さな変化。夜の教室で一人呟く彼女の運命の分かれ道が迫る。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
春休みも終わって新学期になり、始業式とか諸々あったわけだがこれといって語るべき事もないので省く。
京都から留学生として派遣された天ヶ崎千草は、2-A改め3-Aの担任を受け持つ事となった。そして初っ端から口の端を引き攣らせていた。
「3年!」「A組!!」『ネギ先生~っ! あ~~んど アーニャ先生ーっ!』
鳴滝姉妹が昨日の夕方に再放送していた金○先生のマネをし、新学期最初の日と言う事もあってか異常な位にテンションの高すぎる生徒達が追従する。
学年が上がってもクラス替えは一切行われていない。使用する教室も全く同じなので教室のプレートが取り替えられるだけだが、それでもお祭りのように盛り上がれるA組の生徒達のバイタリティには驚かされるというか、呆れるというか。クラスの後方にツッコミを内心でしている千雨と夕映が呆れ返っているが、千草以外に他に気づいた人はいないようだ。
「他のクラスの迷惑になるから、もう少し静かにしいや」
『はーい、天ヶ崎先生もよろしくお願いします!』
[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/16
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク