ハーメルン
山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜
平和な日々の出来事
時計の針が鳴り響くチームルーム。一人で過ごすその時間はとても心地の良いものだが、何だか寂しさを感じてしまう。
桜木(まさか、移籍してきたスズカしかデビューしてないとはなー)
ここ数日、チームスピカで行われたトレーニングは基礎を固められたメニューばかりだった。てっきりゴールドシップはちゃっかりデビューを果たしてそうだと思ったが、そうでも無かったらしい。
桜木(ウオッカとスカーレットはこのまま順当に行けば活躍は安心できるだろう.........)
そう思いながら、白い天井にここ数日の彼女達の姿を投影する。二人の走りは全く逆の走り方だと言えよう。
先行、逃げ脚質で優位な位置でレースを行い、周りと自分の空間を離し、自分のレースにするダイワスカーレット。
一方、先行、差し脚質のウオッカは、相手をその気にさせながら、一瞬の隙を突き、相手のレースを自分のレースとすげ替える力を持っている。
ふと、じんわりと体温が上がっていくのを感じ、冷蔵庫に入れて置いたアイスに手をつける。
ひんやりとしたソーダ味が口に広がっていくのと同時に、今回の懸念点であるサイレンススズカについて考える。
桜木(なぜかは分からないが、先行の走り方がそもそもあっていない気がするんだよな.........)
もちろん、それをする程の素質と力量は持っている。ただ、それをすると本人の能力が低下する様に感じた。
その原因を探る為に、沖野さんからビデオを借りた。デビューレースでは、二着のウマ娘に七馬身の差を付けて勝っていた。
桜木(言うのは簡単だ。けれど、それでまた以前の走りに戻るという確証は無い)
中々難しい問題を引っさげてきたものだ。そう思いながらも、今のスズカをどうするべきかという問題の解決法は、これから先も必要になるだろうと感じていた。
食べ終えたアイスの棒を見る。そこには何も書かれてはいなかった。
桜木「ハズレかー.........」
ーーー
「なぁ聞いたか、例の新人」
「あぁ、あのメジロ家のウマ娘と、アグネス家のウマ娘の担当してるって言う奴か?」
桐生院「.........」
ヒソヒソと聞こえてくる桜木さんの話。とても気分が良い物とは言えません。彼がこの職員室を拠点としていた時にもこうした話は聞こえてきましたが、彼は気にするどころか、大きな欠伸を立てていました。
「一体どんな手を使ったんだ?」
「噂じゃ実験体になる事に抵抗する所か、自分から志願したらしいぞ」
それは本当です。私も耳を疑いましたが、彼は嬉々として自らの身体を差し出したと語っていました。正直、普段から彼が何を考えているのか理解出来ません。
最初に彼に会った時もそうでした。私が、名門である桐生院の名を背負い、トレーナーになろうとして受けようとした試験。あの日、私の緊張は極限にまで高まっていました。いくら自分に大丈夫だと言い聞かせても、足の震えは収まらず、思考は鈍っていました。
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