ハーメルン
山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜
トレーナー「夢の跡地を草原に」





 遂に始まってしまった中等部外部講和会。開幕のザワザワとした空気も、俺がビシッとキメたスーツ姿になった時は、会場は痛いくらいにシンとして居た。


桜木(作戦その一、大成功だな)


 知能のある生物は、目の前で突飛な事が起きれば対処が困難になる。それは知能が高ければ高い程有効である。何故ならば経験則から対処するのが本能レベルで染み付いているからだ。
 だから敢えてあの登場をした。今まで真面目を気取っていた奴らに打って変わって、俺がこの場を支配する。大勢の注目を集めるのは、富や地位でも、名誉でも無い。常識の欠落した人を不快にさせないパフォーマンスだ。
 とは言っても、やりすぎは禁物だ。俺は独裁者になりたい訳では無い。ただ、この講和の中だけは、全員俺の世界に引きずり込まなければ、あのイベントは最大限まで楽しめないのだ。


桜木「それではね、まず自己紹介の方させて頂きます」


 手元のノートパソコンを操作して、パワーポイントをプロジェクターでステージの壁に投影させる。よしよし、動きも重くないな。


桜木「200X年生まれのてんびん座。血液型はOですね。良く漫画の主人公とかもO型が多いと言われてますね」


 へー、と言ったような声が各所から聞こえてくる。よく見るとうんうんと頷いている子も居る。よほど漫画が好きなのだろう。


桜木「僕ね、中央生まれではありません。生まれてから高校卒業までは、北海道で暮らしていました」


桜木「会社は○○という企業で、僕は営業で3年、働いていました」


 そうそう、頑張って働いてたんだよなー。心は折れたけど。 今思えばそれも無駄じゃなかったって訳だ。


桜木「この会社は、動けなくなった人の稼働部位の補助機を作る会社で、僕もその身体の動きに興味を持っていたんで、面接して就職しました」


桜木「すっごい良い企業で、仕事も勉強も楽しかったんだけれど、人間関係が上手くいかなくて、メンタルがおしゃかになったんでね、退職しました」


 自分でここまで聞いていても、トレーナーになれる要素が全くない。なんならメンヘラになってトレーナーやってるとか狂人すぎるのでは?まぁ、人生何が起こるか分からないのが醍醐味ではある。


桜木「それでね、やめた瞬間に体調が戻ったんで、どうしたもんかなーとフラフラしてたら、レース場が目に付いたわけですよ。ウマ娘の。『うっわぁこれ逆張りして今まで見てこなかったやつじゃんー』ってなって、いい機会だからどんなもんかと思って会場に入ってね」


 あの時の大歓声は今でも覚えている。何を知ってる訳でもないのに、涙が出そうになる程の人々の感情の高揚。とても素晴らしいものだった。


桜木「実はそこにねー、悪魔が居たんですよー。『どうだ兄ちゃん。その様子だとレース見んの初めてだろ?』って尋ねてきたものですからね?『ええ、めっちゃヤバいっすね。足の可動域の限界も見た目の筋肉の比率的にも人間とは対して違わないのに、回転率もパワーも段違いですね。しかもあの一着をもぎ取ったあの子、あれで抑えてますよきっと。必死ではありましたが後ろを焦らすように付かず離れずで走ってました。本気で走ってたら多分もう三人分くらい開いてましたよ』ってもう興奮して捲し立てちゃったんですよ」

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