ハーメルン
ゲートと加賀さん
加賀とヤオ・ハー・デュッシ


お通夜のような空気が漂う。実際、もう加賀にはどう言葉をかければいいのかわからなかった。
そのままハーブティーを飲み干して、ヤオは席をたった。

カフェから出る。

「あなた、泊まる場所はあるの?」
「いつもは野宿をしている」
「宿ならあるから、組合の管理センターまで行ってみなさい」
「あぁ……ありがとう。加賀と言ったか。礼もできずに申し訳ない」
「いいえ、いいのよ。また何か自衛隊に伝えたいことがあったら、私を尋ねるといいわ」
「そうさせてもらう」

ヤオは管理センターへ。加賀は帰路へとついた。
時刻は夕刻。日は傾いて街は朱色に染められていた。



加賀は晩飯をどうしようかと思い至った。ヤオと席を共にして飲んだのはお茶だけである。
居住区に帰っても食べるものがない。ちょうど切らしている。

「飯屋でも行きましょうかね」

街の酒場兼飯屋へと向かった。
カウンター席に座り、獣人のウェイトレスに注文をお願いする。今日は酒を飲む気がないので、水と肉料理を頼んだ。

「よう、加賀の嬢ちゃん。今夜は外食かい」

気さくな客に話しかけられた。どこかでみた覚えがあると思い記憶を辿ると、先日竜の鱗を売り払った商隊の護衛だった。

「どうも。家に食料がないので、こうして今日は外で食べることにしたんです」

そしてなにか話題はないかと考えた時、ふと、炎龍のことについて尋ねてみようと思った。

「炎龍って、エルベ藩王国に縄張りがあるんですか?」
「そうらしいけどな。俺も詳しくはしらねぇよ。でもなんでもそこに巣があるとかって」
「ということは、やはり活動はエルベ藩王国内に留まるのでしょうか」
「いや、そうでもねぇらしいんだよこれが」

男は声を顰めながら加賀の方に身を寄せてきた。

「うちの若い連中が噂してたのを聞いたんだけどよ、なんでもアッピア街道の南端に出たらしい」
「アッピア街道というと、イタリカに続く道じゃないですか」
「あぁ。もちろん帝国領内だ。おっかねぇぜ」

男は席に戻り、注文した酒を飲み始めた。

「帝国領内にも炎龍が出る……」

コダ村避難民が襲われた時のことを思い出す。あそこも帝国領内ではなかったか。
もし噂が本当なのだとしたら。
ヤオの炎龍討伐の依頼を、もしかしたら、自衛隊が引き受けるかもしれない。
とはいえただの噂話である。信用していいものでもない。加賀は頭の片隅にヤオの顔を残しながらも、別のこと、例えばハーディの情報を探すべく、明日も動こうと考えるのであった。

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