ハーメルン
ゲートと加賀さん
加賀とジゼル

夜になってから、数時間が経過した。
テュガ山近辺は静かなもので、活火山帯が連なっている割には噴火も地震も起きない静かな土地だった。
たまたまロゥリィたちが居合わせている間は静かなだけかもしれないが、音もなく、星空が遠くまで広がっている夜というのは、見張りにはありがたい状況だった。

火山の中、岩棚の方では今頃爆弾を仕掛けている最中だろうか。粘土爆薬をありったけ運んでいた。さしもの炎龍とて足元で大量の爆薬が炸裂すれば無事では済まないだろう。万が一逃げたとしたら、その時は加賀がトドメを刺す。

ふと、なぜこうまでして炎龍は強いのかと考えた。
自衛隊の装備や、加賀の艦爆の爆装があるからこそ倒せるようなものだが、この世界の技術レベルでは到底敵わない相手だ。
それこそ災厄。民は逃げ惑うしかなすすべがなく、活動期の炎龍に怯えながら暮らすしかない。

「ねぇロゥリィ、どうして炎龍はあんなにも強いのかしら」
「強さの秘密ぅ?」
「そう、ね。どう考えてもこの世界の人間には対抗し得ない強さの生物が、なぜいるのかなって」
「簡単よ。それが生態系だもの」

ロゥリィはなんでもないことのように言った。

「ただ生態系の頂点に君臨しているだけよぉ。人間は多くの動物より上の階層に位置しているけれどぉ、トップじゃない。それだけの話よぉ」

生態系で見れば、炎龍が一番上。だから人間は食べられるし、炎龍が餌場を根こそぎ荒らす習性だから、絶滅するまで食べられる。
炎龍の休眠期は長いから、絶滅するまで食べてもまた次の生き物がそこには栄えてくる。今度はそいつらを食べるだけ。

「なんとも、人間にはどうしようもない災厄ですね」
「神に命乞いをして生きながらえるくらいしかこれまでの人間は選ばなかったものぉ。それが自衛隊ときたらぁ、炎龍を討伐するなんて話になるんだものぉ。面白いわよねこの世界はぁ」

くすくすとロゥリィが笑う。つられて加賀も笑った。その時。
宵闇の遠くの空に、点が現れた。その点は次第に形を成し、近づき、

「ロゥリィ、炎龍が来たわ」
「えぇ、そのようね」

炎龍が、遠くの空から飛翔してきた。

「無線を」
「いまやってるけど、これ、もしかして繋がってないんじゃないかしらぁ」
「繋がってない?」

ざーざー言うだけで全然耀司の声が聞こえてこないよぉ、とロゥリィは通信機を持ち上げながら頬を膨らます。

「岩場に遮られているのかも、まずいわね」
「知らせに行く?」
「いまからじゃ間に合わない」

どうすることもできない。爆弾の設置が終わっていることを祈るしかない。
加賀とロゥリィは火山の火口から巣へと戻っていく炎龍を睨みつけながら、どうか無事でいますようにと祈るしかない。

炎龍の姿が見えなくなった直後だった。

「あれぇ〜? こんなところでお姉様に会えるとは奇遇ですねぇ?」

加賀とロゥリィに投げかけられた言葉に、二人は振り返ってその姿を見た。



歳の頃は二十台前半。白ゴスの衣装を着崩したように紐で止めているだけの、随分と露出度の高い服装。見えている肌にはトライバル柄のタトゥーが施されている。もしかすると見えていないところにも、つまり全身に刺青が入っているのかもしれない。

[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/4

[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク
携帯アクセス解析