木/スペシャルウィーク
木。Jupiter.あなたの一番大きな星。
この宇宙には大きな星が幾つもあって、私スペシャルウィークはそれを見るのが好きです。
太陽系で一番大きい星。それは木星だと、お母ちゃんから聞きました。大きな星は地球の何倍もあるって聞いて、私なんかは目が眩みそうな話です。
でも星空は私の視界に収まってしまうので、なんだかとっても不思議な気分……。あれの一つ一つが、私の何千倍もあるんですよねえ……。
と。こんなことを考えていますが、私は今晩御飯の買い出しに出ているのでした。いけないいけない。トレーナーさんに怒られてしまう。
あっ、トレーナーさんとそーいう関係ってわけじゃないんですよ! いや、そりゃそうならちょっと嬉しいかもしれませんが、でも私なんか……どさんこで、どじっこで、すっとこどっこいで……。
今日はただ、風邪をひいてしまったトレーナーさんのために。ちょっと頑張っちゃってるんです。そう、それだけ! やましくないです!
……ああ、もう一本くらいにんじんを買って帰ろうかな……?
トレーナーさんはいつも優しい人です。私から見たらそれはとってもすごいことなんですけど、トレーナーさんはいつも私ばかり褒めてくれて……。
だから、今日は私があなたを褒める番。頑張ってるね、いつもありがとうって。言ってあげる番。
あの土星のように、大きな愛を持てるなら。私は全部、あなたに捧げたい。
……ああ、そういえば。ジュピター、という歌があったなぁ。ライブの練習がてら、歌って帰ろうかな。口ずさもうとして、止まってしまいます。どうしよう、サビしか出てこない……。
えーと。えーと。
「夢を失うよりも、悲しいことは」
「自分を信じて、あげられないこと」
肝心要のメロディが浮かばず、言葉を口にするだけに。でも、いい歌詞だと思いました。
夢。それは私たちウマ娘にとって重要な言葉です。いつでも私たちは夢のために走るし、いつでも私たちは夢のために歌います。
それを失ってしまうなら、それは想像を絶するより悲しいことなのでしょう。
でも、それ以上に悲しいことが。自分を信じられないことだと、この歌は歌っています。
私は、私を信じてあげられているでしょうか。ダービーの夢を取った時、私は確かに私を信じられていたと思います。でもそれからは勝てるばかりじゃなくて、少し揺らいでいるのかもしれません。
……少し、立ち止まってしまいました。本当にずっと頑張っていたのは、トレーナーさん。だから、私はトレーナーさんのことが。ずっとずっと支えてくれる、あなたのことが。
トレーナーさんが私を信じてくれている。だから私は私を信じる理由を持てる。それは少し大袈裟かもしれませんが、心の比重は既にそれくらいに寄ってしまっています。
でも、トレーナーさんはどうでしょうか。私がいるから、と思ってくれるでしょうか。そこまで考えると、少し暗い不安がよぎります。
「お邪魔します、トレーナーさん。……返事はしなくていいですよ、まだ風邪引いてるんですから」
「……おお、よく……ごほっ」
返事しなくていいって言ったのに。その優しさだけで、心は蕩けそうです。
「今から私がにんじんおかゆを作りますから! 待っててくださいね!」
と、心にはちまきを締めて。私の中ではこれは将来の練習なので、とっても力が入ります。
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