日/マンハッタンカフェ
日。Sun.あなたの一番を疑わない星。
太陽は私たちを焼く。楽園へと進む私たちを焼き尽くす。それでもその先を願うのなら、それなりの対価を支払わなければならない。君にそれを支払わせることはあり得ない。私の骨が粉々に砕けて、指一本動かせなくなろうとも。君には何も、背負わせたくない。
トレーナーさんは、私の全て。抜き出せば私はたちまち死に至る。
その逆はどうなのだろう。私は君にとってどれほど大切なのだろう。限りなく縛り続けたいと言う気持ちと、そんな自分を赦せない気持ち。私が君を愛するのは罪に等しい。私のような心無い獣に人を愛する権利はない。
あゝ、どうして。
私の心は、愛に目覚めてしまったのだろうか。わかっている。束縛し、独占し、捕食する。もうその段階は踏まえられ、心を捕らえてしまった自覚がある。
どうして、どうしてなのだろう。無限輪廻に言葉は巡り、愛しか知らない獣は距離の詰め方さえわからない。
「トレーナーさん」
電話をかける。声が聞こえるより前に、接続音と共に君を呼ぶ。
「どうした、こんな夜に」
「眠れなくて。最近こんなことが多いんです」
「緊張してるのかもな、いよいよカフェは目指す場所に届きそうなんだから」
目指す場所。それは相変わらず曖昧で、でも確かに近づいている。私が目指すのはスピードの先にある、光を超えた楽園。
「緊張……」
「そうだ。でも、ゴールが近づくのはいいことだ。だろ?」
それは間違いない。そのはずなのに。
どうして、震えてしまうのだろう。
本当は、怖い。きっと、たまらなく怖い。物語には終わりがあるべきだと曰っていたのに、永遠なんて退屈だと嘯いていたのに。
今の私は、那由多より永遠を求めている。
「……怖い、です」
「……カフェ」
「トレーナーさんが、私の全てをわかってくれているのか。悍ましい執着心が私を包んでいます。……でも、止められない」
「このまま最後まで行ってしまえるのか。本当にそこは楽園なのか」
「……ヤルダバオトの偽りの楽園が、私たちを誘っているのではないか」
そうだ。私たちの向かう先は、本当に楽園なのか? だからここで止まってしまうべきなのではないか?
「それは、違うはずだよ」
そんな私の期待感は、優しい言葉に砕かれる。
「君が、君の行く道が。間違いであるはずがない。俺はずっと君を見てきた。だから君が正しいって知ってる」
「トレーナー、さん……」
私の求める言葉は。
「カフェ。頑張れ」
優しく背中を押すよりも。
「……ありがとうございます」
優しく抱き止めて欲しかった。
愛と愛が愛しむ廻天。深く深くまで互いを求め、故にすれ違い。どこまでも深く進んでゆく。
「……でも、約束するよ。仮にどうなっても」
けれど、そこに繋がる愛があるのなら。
「……俺は、君と一緒にいる」
奈落の底で愛は結ばれる。楽園とは程遠くても、確かに。
「……私も、絶対に」
だから、私はそれでいい。これが失敗を生んだとしても、君は決して傷つかないのだから。太陽に焼かれるイカロスは、その愚かさを以って他者を守った。
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