ハーメルン
走ることしか考えていないサイレンススズカと効率的に勝つ方法を考えるタイプのトレーナー。あと割と理解のある友人一同。
気持ち良ければ疲れないサイレンススズカ
さて、グラスワンダーが一時合流することが決まって二日。今日から本格的に彼女が行動を共にする。基本的にはスズカが私といるのと同じようなペースでくっついてくるらしい。せっかく待つのなら少しでも何かを吸収したい、とのこと。
昨日はグラスワンダーのトレーナーに突撃され、土下座される勢いで頭を下げられた。スペシャルウィークのトレーナーと違い、グラスワンダーのトレーナーは結構若くて……いや私より年上だしキャリアもあるんだけど、実績がやや足りてないって感じだった。実績ってG1のことね。
「ではスズカ。今日からトレーニング以外で走ることは許しません」
「………………はぃ」
「なんで不服そうなの」
スズカにはしっかり、勝手に走らない、グラスワンダーに知られる形でおねだりをしない、ということを言い付けてある。それを言われた瞬間に大変な形相で走りに行ったスズカを、流石に止められなかったのは不覚である。
だってまあ、グラスワンダーはスズカの速さを学びに来るわけで、しかし私のウマ娘になるわけじゃない。まず一つ、スズカのトレーニングを一般的と思われたくないのだ。
スズカの『ただ走るだけ』という趣味(悪癖)が、彼女のスピードカンストに寄与していることは間違いない。だが、それはあくまで彼女が小さな頃から暇さえあれば走っていて、しかも距離や速度が尋常ではなかったから実現したこと。本来、純粋に走るだけのトレーニングは負荷と成長のバランスがあまりにも悪すぎる……と、私には見えている。
仮に真似されて怪我でもされてみろ。具合によっては私の命でも償えない事態になる。よってスズカ、強制ランニング禁である。後輩のために。もう一回言おう。後輩のために、だ。
……ちょっと当て付けの意味もある。
「だって……無期限みたいなものじゃないですか、こんなの……」
「どこかのあほ栗毛が目先のチャンスしか見てないからでしょ」
「へぅ」
昨日からずっとスズカの耳はへにょりと倒れてしまっている。流石に絶好調とはいかず少し調子は下がっているが、まあ許容範囲か。たぶん禁止が解けるまで戻らないだろうし。
「その代わり併走はできるんだから良いでしょ?」
「でも、一回しか本気で走れません……」
「もう……メインは併走トレーニングじゃなくてグラスワンダーの心を折ることなんだから、そりゃハンデも付けるでしょ」
ちなみに、併走……という名の蹂躙は今日からやる。どうしてって、スズカが昨日駆け込み需要とばかりに走ったものだから、後日にする意味が無くなったからだ。相変わらず計画をぐちゃぐちゃにするウマ娘である。
ただ、毎日走らせないのは予定通り。その間は筋トレとプールしかしないし、グラスワンダーもそれを並んで行う。一応預かるのは一時的なので、脚に負担がかかるトレーニングは極力避けることになるね。
「じゃあ良い?しっかり先輩らしくするのよ。走りたがるのも甘えるのも駄目だからね」
「うぅ……どうしてこんなことに……」
「自業自得じゃない……?」
へにょへにょスズカを連れてグラスワンダーのもとへ。彼女はトレーナーと一緒に荷物を持って教室で待っていた。
いくつかの確認を済ませ、お預かりします、としっかり礼節は通しておく。グラスワンダーのトレーナーは終始心底悔しそうにしていたし、別れる瞬間もグラスワンダーと私達に謝っていたけど。今生の別れかよ。
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