ハーメルン
走ることしか考えていないサイレンススズカと効率的に勝つ方法を考えるタイプのトレーナー。あと割と理解のある友人一同。
走ることでいっぱいいっぱいのサイレンススズカ


「ふん、ふん、ふふん」
「もう、スズカ。あんまりニコニコしてないで?」
「すみません、つい……楽しみで」


 ある日。グラスワンダーをボコボコにしたその足で、私とスズカは中山で行われる模擬レースに来ていた。

 元々見に来る予定ではあったけれど、今日はそれに加えて理事長……がたづなさんを経由して、是非模擬レースを見に行って、できればそこで走ってくれないか、という話が数日前にあったのだ。


 なんでも、模擬レースには既にトレセンにいるスターウマ娘に走ってもらい、背中を見せて憧れを持たせる、という新入生への洗礼があるらしい。公開模擬レースの時もそんな話を聞いた気もする。へえそうなんだ、くらい。それで折れちゃうウマ娘と奮起するウマ娘でどっちが多いんだろう……とは思ったけど、ここまでトレセンが存続しているのがその答えかな。


 で、その役目は生徒会が基本的にやるんだけど……常々逃げウマがいないことが指摘されていたらしい。その上、今日の担当であるエアグルーヴがケガで出られないとのこと。代わりを立てるという話になり……白羽の矢が立ったのがスズカだった。


「ふふ、ふふふ。楽しみですね……」
「……もう。一回だけだからね。物足りないからって続けて走ったりしないでよね」
「もちろん。私を信じてください」
「…………いやいや」


 しかも、模擬レースでのスズカの相手はごく少数。立候補とクジでたった二人が選ばれるのみだ。本題は現役G1ウマ娘の速さを見ることだからね。公開併走と違ってトレーニング的な意味は薄いので、基本的には見学のみとなる。

 公開併走もそうだったけど、やっぱりウキウキのスズカ。最近毎日先頭取ってるでしょ、とは言ってみたんだけど、それとこれとは話が違うらしい。


「伸び脚も使って良いんですよね?」
「……まあ、できれば全力でって言われちゃったし」


 それに、ジャパンカップにおいてスズカの手札は全て見せた。もう隠す必要もない。ご機嫌なスズカには自業自得とはいえ毎日我慢させてしまっているし、これも仕事だし。


「こんにちは。お疲れ様です、トレーナーさん!」
「お疲れ様です、たづなさん」


 私達は今現在控え室で座って待っている。そこにたづなさんも来て、今日の段取りの話が始まった。

 ここに来たときはビックリしたものだ。流石は『サイレンススズカ』といったところで、専用駐車場から控え室までいかつい黒服の男の人達がガードについてくれる、なんてこともあった。

 模擬レースとはいえ中央トレセンが開くレースだし、新入生は基本的には全員どこかの日に出場する。一般観客も入場可なので、未来のスターを見たい! と思うようなレベルの熱心なファンもかなり多いらしいのだ。そこにスズカがいるとなれば……何があるか解らない。


 実際ガードの向こうに一目見ようと人の壁ができていた。当のスズカはそんなこと気にせず、むしろ取り囲んでくる黒服の方にビビって私に引っ付いてきたけど。


「で、ここでお二人に出てきていただいて……サイレンススズカさんには何か一言頂けたらと」
「えっ……は、話すんですか……? 走るだけって聞いてたんですけど……」
「え?」
「言いました。スズカが話聞いてなかっただけです」

[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/4

[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク
携帯アクセス解析