第3話 ロスト
「赤坂さん、それで、ロストっていうのは結局なんなんだ?」
ダンジョンの中を歩きながら、隣を歩く赤坂さんに問いかける。
「ロストってのは嬢ちゃんみたいな人たちのことを言うのさ。
災厄の日、這い出るモンスターに多くの人が殺されたが、モンスターに殺されるだけじゃなく、どうやらダンジョンの出現とともにある程度の数の人達が忽然と姿を消したらしい。
で、どういうわけだか、その忽然と姿を消した人たちは、ダンジョン出現から数十年経過した今なお、ときどきダンジョン内で保護されることがある。
まあ、ロストと一口に言っても、色々居るけどな。
完全に記憶喪失になっている人もいるし、災厄の日以前の日々を過ごしていた記憶はあるけれど、ロストとして保護されるまでの記憶がない人もいる。姿を消したとき20歳の人が、姿を消した10年後に20歳のままダンジョンで発見される、とかな。
変わりどころで言えば、地球とは異なる世界、つまり異世界に行っていた、なんて人も割合的には少ないが一部いる」
ふむ、ワタシはその“異世界に行っていたロスト”という枠組みに含まれるのだろう。
もしかしたらワタシが異世界に転生したのも災厄の日とやらが少なからず関係しているのかもしれないな。
まあ、転生して異世界で女の子になるのは意味が分からないけど。
今でこそ慣れたが、転生して最初の方とか湯浴みとかで結構困ったりしたもんだ。ま、今となってはいい思い出かもしれん。
幼児体型の美少女の裸(自分)がね、どうしても視界に入るんだよな……
「嬢ちゃん、異世界に行ってた口だろ?」
昔の思い出に浸っていると、赤坂さんが得意げに聞いてきた。
「どうしてそう思う? まだあまりワタシの事情を話していなかったと思うが」
「色々あるが、まずロストなのは確定だと思った。
ここはどこ? なんて質問するし、ちゃんと入り口からダンジョンに入ったならここがイシギダンジョンであることを知らないはずがない。
んで、嬢ちゃん、年齢は十代後半くらいだろ?
それにしてはなんていうか…… 突然ダンジョンに放り出されて状況が飲み込めないにしては結構落ち着いて居るし、冷静だった。
俺が吹き飛ばしたオークも見ているだろうが、あの化け物はなにか、という質問はなかった。ロストは結構パニックに陥っていることが多いって聞いてたが、嬢ちゃんは違った。
そうすると、昔耳に挟んだ事例みたいに、嬢ちゃんは異世界で色々慣れているんじゃないかってな。
あ! あとそうだ。小声だったからあまり聞こえなかったが、たぶん日本語じゃない言語を喋ってた。英語でもなかった」
「ほう…… 意外と見ているじゃないか赤坂さん」
「合ってたか?」
ふふん、と得意気に赤坂さんが聞いてくる。
赤坂さんは40~50代くらいに見えるが、得意気にしている様がなんだか一瞬少年のように思えてしまって、思わずクスリと笑ってしまった。
ワタシは異世界に行く前は普通に成人してサラリーマンだったし、異世界で何十年と魔王として君臨していたから、赤坂さんの言う“年齢は十代後半くらい”という部分は違うが、まあ、そこは黙っておこう。
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