第5話 ただいま
「やっと地上に出たな」
「ああ」
赤坂さんと出会い、ダンジョンを歩くこと約1時間。
ようやくワタシたちは地上に出た。
「やはり地下の陰湿な空気はいかんな。暗いところは嫌いではないが、ああもジメジメしていると気が滅入る。地上は良い」
「久々のシャバの空気は美味い、というやつですね」
「……ナヴィ、どこでそんな言葉覚えたんだ」
「……? 適切な表現かと思ったのですが、間違っていたでしょうか?」
それは“ヤ”のつく職業の人が使う言葉だナヴィ。淡々とした口調で変なことを言うんじゃない。
本当にどこでそんな言葉を覚えたんだ。
まあいい。
ワタシたちはダンジョンの入り口から入ったわけではないので、自分がいたダンジョンの入り口は初めて見るが、随分と重厚な扉で固められている。万が一にもダンジョンからモンスターが這い出てこないように、人間たちがあとから扉を設置したのだろう。
鎧をつけた警備員みたいな人も立っている。
「ダンジョン自体はワタシたちが居た世界とあまり変わらないが、ダンジョンが建物の中にすっぽり収められているのは驚いたな」
「あー、そうなのか? こっちではダンジョンが出現すると、まず入り口をガッチリ扉で固めて、その後こういうふうに建物を建設するんだ。
ここにはダンジョンを管理するための事務所もあるし、簡易的なシャワー室なんかもあるぞ。ほらあそこだ」
「ほぉー…」
赤坂さんに言われた方を見ると“シャワー室はこちら! E~Dランク冒険者は利用料30%OFF!”とポップな案内看板が立っていた。
案内看板によると、シャワーだけでなく、ダンジョンで汚れた防具や服、モンスターの血がついた武器などを洗ったりするための簡易的な洗い場も併設されているらしい。
現代チックな建物の中にダンジョンの入口があるという感じなので、異世界経験者からすると少し違和感があるが、異世界に比べ随分と充実した施設だ。
異世界に居た頃は魔王の公務が嫌で、お忍びで人間の街に何回か遊びに行ったことがあったが、異世界の冒険者は獣臭しかしなかったな。まあ、それが向こうでの“普通”だったわけだが。
それに比べさすが日本。ワタシがまだ男でサラリーマンやっていた頃から何十年も経っているが、変わらず清潔で素晴らしい。
「どうする? 俺も嬢ちゃんもあんまり汚れていないし、このままギルドに向かおうかと思ってたんだが、軽くシャワーくらい浴びてきてもいいぞ?
利用料くらいは俺が払ってやる」
「いいや、別に大丈夫だ。返り血なんて浴びてないし、汗もかいていないからな。
それに、多少の汚れぐらい、水魔法でちゃちゃっと洗える」
「水魔法で洗えるのか? 器用だな…… じゃあこのまま行こう。
ここにある転送装置は今メンテナンス中でな。歩き疲れてるかもしれないが、一番近い冒険者ギルドまでもうちょっとあるから我慢してくれ」
「問題ない」
赤坂さんと一緒に建物から出る。
自動ドアを出て眼前に広がるのは、懐かしのコンクリートジャングル。
背の高いビルに、巨大なモニターに流れるCM。あれはコンビニだろうか。数十年経過しても日本の町並みはあまり変わらないな。
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