第十話 セイの仕事
「“笑う死書”(スマイリー・ライブラリアン)」
口に出してみますが、なぜ私にこんな通称がついたのかわかりません。私は日々まじめに課された業務を粛々とこなしているだけだというのに。
私とさよさんは、予定どおり魔法学術都市アリアドネーに居を構えました。アリアドネーって学生が多いためか、いろいろと安かったんですよ。物価とか地価とか。
なので、少し背伸びして小さな家を借りました。ゆくゆくは持ち主と交渉して買い上げるつもりです。将来的には内部に大規模な改装を施して拠点として使っても良いかもしれません。
ですが、これで結構お金を使ったので、すぐに仕事を探すはめになりました。さいわい、図書館での仕事を見つけることができました。
この図書館は学生でなくとも本を借りることができるらしく、ほっとしましたね。
あと、ここに来て魔法使いに対する印象がかなり変わりました。悪いのは連合と立派な魔法使いです。
独善主義者とでも言うんですかね、彼らは。亜人の魔法使いには結構良識的な方が多いのですが……。
あ、それと今は偽名でクロト、という名字を使っています。これはさよさんも同じ物使っています。え、なぜ同じ名字にしたか? それを訊くのは野暮ってもんでしょう。
とにかく、ここでの仕事は大きく二つ。“貸し出し期限の過ぎた本の督促”、そして“強制返却”です。
アリアドネーは魔法学術都市の名を冠するだけあって、その図書館には数多くの多種多様な魔法に関する本が、世界もジャンルも問わずに大量に収められています。
しかし、なかには悪いやつもいるもので、貴重書を借りたまま返さないやつが結構いるのです。主にどこかネジの飛んだ学者やらずぼらな学生やらがそれです。まったく迷惑極まりない。
取り返しに行きたくても司書じゃとても手が足りない。戦乙女騎士団も暇じゃない。なら私のような傭兵アルバイターの仕事です。
延滞者のところに赴いて、返せばよし、返さぬならば実力でもって回収するという仕事です。この仕事は歩合制の出来高払いですが、私はかなり稼げています。
……これには理由がありましてね。
初めのころはそうでもなかったんですが、アリアドネーに居を構えてからはこの仕事をしつつ図書館で本を借りて勉強してたんですよ。
「魔法基礎論」とか「魔法障壁基礎概念」とか「複合的多重魔法障壁論」とか利用出来そうな物から、「鬼神兵とは?」とか「ケルベラスの生き物」とか、とにかく雑多にいろいろと。
それらをふまえた上で、玄凪式の結界術を下地にして魔法障壁のような常時展開型の新しい結界術の開発に取り組んでみました。
結果。何かが上手い具合にかみ合ったのか、とんとん拍子に研究が進んでいき、あっという間にできたんですよ。新しい、革新的とも言える結界術式が。時折見かける連合の魔法使いに対するフラストレーションも作用したのかもしれません。
とにかく、私はこれを天球儀式結界術(仮)と呼ぶことにしました。(仮)は重要ですから忘れないでください。完成型ではありませんから。
この結界術式、最小でも十数個、最大では現状数百の結界が互いに互いを補完しあうため隙がなく、範囲もいじれて、おまけに物理防御と結界の目視不能というおまけ付き。
ステルスはつけていません。あれは影響がありすぎてもとの結界を維持できなくなりますからね。
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