第十四話 彼との交渉
――突然ですが、私は今非常に困っているのです。
より具体的には、今私の前には三人の男達がなぜか正座して座っているのですが、そのメンツが問題なのです。
一人は、先日私の勧誘にきた水のアダドーを名乗る挑発の男性。二人目は、同じく長髪ですが、上半身裸で格闘家のような肉体をしたいかつい男。
そして、三人目が一番の問題です。いえ、二人目の格好も十分問題なんですが、それとはまたベクトルの方向が違います。
「やあ、初めまして、“笑う死書”クロト・セイ。僕はアーウェルンクス、ただの“アーウェルンクス”だ」
アーウェルンクスと名乗る魔法世界では珍しい詰め襟を着たこの青年は、他の二人と随分印象が異なります。
亜人には見えないので人のはずなんですが、何か油断できないというか、薄ら寒いものを感じます。あるいは高位悪魔、というのもあるかもしれません。
さよさんにはお茶を出してもらった後は別室で待機していてもらうつもりでしたが、今は後ろに控えてもらっています。
そうすればいざとなればさよさんと共に脱出することも可能ですし。
「より詳しい情報がないと、検討のしようがないという話だったね。今回はこちらの資料と予定している雇用条件についてまとめてある。
今ここで読んでくれるかい? 即決しろとは言わないけれど、外にもれると困る情報もあるからね。この交渉が終わり次第破棄する予定なんだ」
怖いですね。殺気もなく、威圧感もなく、ただ言葉だけで相手にプレッシャーをあたえるとは。どうやらアダドーよりも“上”の人物のようです。
「拝見しましょう」
机の上に置かれた資料を手に取り、目を通していきます。
組織の名前は……完全なる世界。名前からしてどうにもうさんくさい組織ですね。しかし十万人規模とはすさまじい。
雇用期間については交渉次第みたいですが、どうやら給料は良いようです。破格といっても良いでしょうし、契約する場合は、待遇は幹部クラスとして扱うと書かれているのですが……
「――二つ、いえ三つ気になる点があります」
「なにかな?」
「まずひとつ。雇用期間についてはまあ今はいいでしょう。ただし、この条件は破格すぎる。見ず知らず、何の係わりもなかった人間にだす条件じゃない。あなた方は私に何を求めているのです?」
こういうと、彼はあごに手をあてて考える素振りをしました。
……ああ、わかりましたよ。違和感の正体。彼は“人らしく”ないのです。些細な動作、細かな表情の動き、それら全ては人と変わらない。そういう点では、先日のオレンジ髪のお嬢さんよりも人間らしいと言えるでしょう。
しかし、瞳の奥に見える光りも、顔に張り付いた薄い笑みも、どこか芝居がかっていて、どこか人形のような薄ら寒さを感じるのです。
「そうだね、とりあえずは戦力確保かな。本当はここまでの待遇を用意するつもりはなかったんだけど、僕の隣にいる彼が余りにも君を評価したんでね。他に流れられても困るというのもあるけれど」
「まあ良いでしょう。次に二つ目、あなたたち、表の組織ではありませんね?」
「そうだよ。強いて言うなら悪の秘密組織さ」
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