第二話 幽霊少女
『うわぁ、凄くきれいです!』
近場の屋台に頭を下げ、使い捨てという箸をもらいそばを処理したセイは、麻帆良をさまよい歩いていた。
『どうやってあんなに大きなものを動かしてるんでしょう?』
神木の方向はわかるのだが、道がまったくわからない。昔であれば半刻もかからなかった道程が、記憶からかけ離れてしまったせいで建物が邪魔をしてうまく進めないのだ。
『あっ! あの子の衣装、フリルがたくさんついてて、かわいいな……』
ようやく道を見つけたかと思ったら、今度は「ぱれーど」とかいう派手でぴかぴかした集団のせいで通れなくなってしまった。
『あれ? あっちのお店、何を焼いてるんだろう?』
昔であれば考えられないような人の群の中で思うように進めず苛立ちが募ってきた頃に、術具として使える腰刀があるのを思い出した。
式神として鴉天狗でも呼び出してひとっ飛びしてやろうかとも思ったが、時々見かけた魔法使いらしき奴らに見つかりたくなかったし、流石に非常識かと思ってやめた。
『わぁ、とうもろこしだぁ! おいしそうだなぁ……』
それで、近くにいた〈実行委員〉という腕章をつけた少年にどうすれば神木……今で言うところの世界樹まで行けるのか聞いてみたところ、目の前の「ぱれーど」が終わるまではどの道も通れないときた。
しかも〈ぱれーど〉は始まってすぐらしく、緊急時と一部関係者以外は何時間も待たなくてはいけないらしい。
『……』
結局、手を打てぬまま時間だけが有り余ってしまい、せっかくなので麻帆良祭を見物することにしたのだ。
幸い、仮装している者が学生をはじめけっこういるので、今の褐色の和装に緋色の狐面というセイの格好でもそんなに周りからは浮いていなかったりする。
無論観光には現状確認と敵陣視察の意味もあるが、何にせよやはり狐の面をくれた屋台の親父には感謝である。
『はぁ…』
そして、あちらこちらを気の向くまま、しかし常に世界樹を視界に修められる範囲でふらふらしている内に、見つけてしまったのだ。
『うぅ……グスッ』
うつむいてすすり泣く、幽霊の少女を。
◆
『はぁ…』
初めまして皆さん、相坂さよです。私はもう何十年もこの麻帆良で幽霊をやってるんですよ? 後輩だって、何千人といるんです。えへん!
……
………
…………
うぅ、なにやってるんでしょう、私。いくら寂しいからって、はずかしいです。皆さんって誰のことでしょう。
でも、毎年この時期はまだいいんですよ? 夜になってもたくさん人がいますし、遅くまでどこも明るいし、珍しい物だってたくさん見られるんですよ。
だから、寂しくなんてないんですよ? 寂しくなんて……
『うぅ……グスッ』
……ほんとは、すごく寂しいんです。しってますか? 誰からも相手にされないのって、とってもつらいことなんですよ? いつもひとりなんです。
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