第四話 式神召喚
「ぬらりひょん、か!?」
「ほあっ!?」
和装に禿頭、背部へと出張った後頭部。民話や伝承に姿を残す妖怪は数在れど、この条件に合致する妖怪はひとつだけ。すなわち、妖怪の総大将とうたわれた大妖怪〈ぬらりひょん〉である。
「いや儂人間! 妖怪じゃなくて普通の人間!!」
「ありえません。その突き出した後頭部、ぬらりひょん以外の何者でもないではないですか」
ぬらりひょんが必死に否定するが、騙されはしまいと目をこらす。妖力こそ感じないが、それくらいは伝承にあるぬらりひょんならどうとでもでる。
仮にぬらりひょんでないとしても、背後に集団を従えている以上は一定の地位にあるということを示し、魔法使いに奪われたこの地において地位を持っていると言うことは……老人もまた、魔法使いであるということだ。
「いやだから人間じゃと……まあよい、それよりもおぬしらに二三聞きたいことがある」
老人が仕切り直したことで、背後の集団の空気も切り替わる。合図一つで、いつでも戦闘へ移ることができる状態へと。
「まったく……いくら人が多いとはいえ、よくこの世界樹前広場まで来れたものじゃ。わしは近衛近右衛門。この麻帆良の学園長にして、関東魔法協会の長をしておる。お主らはその身なりから察するに、関西呪術協会の者で間違いないかの?」
「……関東魔法協会に、関西呪術協会? いったい何のことでしょうか?」
聞き覚えの無い言葉。本心からの対応であるが相手はそうは思わなかったらしく、集団の中の数名が明らかに苛立った表情をする。
一方で、セイは語感から二者が対立しているだろうとあたりをつける。組織の名前だけではあるが、それでも大きな情報である。
(はて……そんな名前の組織は……。この百年の間にできた組織でしょうか?)
「貴様、とぼけるのもいい加減にしろっ!」
後ろにいた男の一人が、痺れをきらしたのかそう言い放つ。そう言われても事実知らない物は知らないのだからしょうがないとも思うのだが。
「学園長、やはり問答無用で捕縛しましょう! 尋問ならその後でもできます!」
「……しょうがないのう。おぬしら、おとなしく捕まってはくれんかの? 今ならまだそれなりの対応ができるのじゃが……」
セイは無言のまま、後ろにいたさよの肩に右手を回し抱きかかえる。突然のことにさよが短い悲鳴をあげるが、気にしている余裕はない。
長く争い続けた魔法使い。目の前にいるのは実際に相手をしてきた西欧人ではなく同じ日本人だが、それでも思想や言動は土地を侵した魔法使いとなんら変わらない。
であるならば、セイの感情の指針は自然と一つの方向へと固定される。
左手はすでに腰刀の柄をにぎり、いつでも抜けるようにしておく。その動作は、誰の目から見ても確かな意思表示と成る。
「……交渉決裂のようじゃの。やむをえまい」
近右衛門とやらの言葉にあわせて魔法使いたちは扇状に展開。そのまま魔力で作られた矢を放つ。
属性はバラバラのようであるが、先ほどの言葉から察するにおそらくは捕縛系魔法。数はだいたい一人二十程度、全部で四百すこし。それが半包囲を形成する。
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