エキシビジョンレース
「これでよしっと…髪の毛とかハネてないよね…?尻尾も大丈夫かな。」
そういってマーシャルは控室の大きな姿見で何度も自らを確認する。
この勝負服も、もうしっかりと彼女に馴染んできたものだ。
そして彼女は姿見の前でくるっと一回転。
スカートがひらッと舞う。
「うん、バッチリ!」
そのときにふと目に入る『Ⅶ』の刺繍。
彼女はそれを優しく摩る。
そして黙って頷く。
その時、コンコンと彼女の控室を誰かが訪ねる。
「はい?」
「お父さんだよ、マーシャル。入ってもいいかい?」
確かに聞こえる父の声、マーシャルは大きく張った声でうんと答える。
そしてがちゃりと扉が開く。
それと同時に、扉の向こうからやってきた父は、娘の勝負服姿におっと目を見開いた。
「…近くで見ると、一層カッコよく見えるよ。」
「本当?」
「ああ、奇麗だよ。昔のお母さんにそっくりだ。」
父は感慨深そうに、立派になった娘の姿を目に焼き付ける。
「そう…かな。」
マーシャルは少し照れくさそうに下を向いた。
「そういえば、お母さんは?」
そうマーシャルが聞く。
「…後で会えるよ。」
父はまるで何かを隠しているかのよう、少し意味深に言う。
マーシャルはそのことを、そのままの意で受けた為、あまり深く疑問には抱かず、そうなんだとだけ答える。
「時間は大丈夫?」
「ええっと…あ!いけない!もうすぐだ!」
とマーシャルは控室の扉へ。そしてノブに手をかけた時に、父に向って。
「行ってきます」と言った。
「ああ…行ってらっしゃい。」
父もまた、淀みなき声で答えた。
―――――――――――――――――
この日、マーシャルが居たのは東京の中央…ではなく。
地方の少し古びた競技場だった。
そこはマーシャルの地元にある競技場。
そこでの特別な催しに、彼女は招待されたのだった。
その催しとは、この地元のヒーローである彼女のエキシビジョンレース。
正式な記録として残らないレースへの招待だった。
しかもそれは一風変わったレース。
地方であろうとも、一度の出走人数は最低6人いるはず。
だが、このエキシビジョンレースの役者は、マーシャルと、チャレンジャーのたった二人だけ。
その上、マーシャルを含めたほとんどの者が、そのチャレンジャーが誰なのかを知らなかった。
チャレンジャーが誰なのかを知っているのは、ごく一部の関係者のみ。
その時になってようやくわかるらしい。
ウワサによると、かつて中央にて目覚ましい活躍をした元GⅠウマ娘が相手だという。
…だけど、たとえ誰が相手であろうと。自分は自分の走りを貫くのみ。
そうマーシャルは胸に誓う。
『さぁ!アックンペイル!そのまま逃げ切って…ゴールイン!!見事12Rを勝しました!』
会場からは地方競技場とは思えぬほどの盛況が。
12Rが終了した。
レースが終了したウマ娘たちがぞろぞろと、引き上げてくる。
地下バ道にて待機する彼女は、その引き上げてくるウマ娘たちとすれ違う。
地方に属するウマ娘たちは、本物のGⅠウマ娘、レッドマーシャルのその姿に思わず息をのむ。
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