ハーメルン
最終到達点『ロドス』
EP.03 黒雲白雨

 あれから一月歩いてきた。山は中腹の下辺りまで顔を出し、ようやっと折り返しを過ぎたのだなと私は息を吐いた。
 水が尽きれば地下水をアーツで引き上げて補充し、感知した外敵は叩きのめした。其れ以外は只管に歩くだけだ。途中に偽沙蚕の巣があったが、遠くから爆破して終わらせた。毒を持つ奴に近づくべきでは無い。臭いしな。

 錫杖がガシャンガシャンと五月蝿いのだが、其処でふと鳴らしかたが悪いのではと思ったのだ。記憶に有る彼の冒険家が鳴らす錫杖の音は、大層綺麗で聞き心地の良いモノであった。
 打ち付ける力やら角度やらを試行錯誤しながら歩いていると、時偶シャランと流麗な音を奏でるのだ。私は其れをいたく気に入り、夢中になって鳴らし方を探ったものだ。足場の悪い砂地故安定させるのに苦労したものよ。

 冒険家は此の音色にアーツを組み込んでいたようで、私の行使するアーツとも互換性が非常に高かった。意識してアーツを併用した時、その効力に驚いてオリジムシを踏み潰してしまった程だ。

 シャランシャランと鳴らしながら歩みは快調に進む。気分が乗ると出る足が軽くなるものよ。

 歩いていると突然視界が暗くなった。空を見上げると雲が太陽を遮っていた。珍しいことも有るものだ。此の大地において雲は殆ど見ることが出来ないと聞いているのだ。それも、一生に一度並みに。
 何かの兆しか分からんが影に居るのは存外楽なものよ。



***



 雲を見てから一日経過した。空を見る度に砂塵の黄色は青へと透き通っていく。あれが空本来の色なのだろうが私はこの初めての現象に困惑しており、そのような事に気を掛ける暇が無かった。

 風が止んでいる。砂が一粒として動くことがない。空を舞う砂塵によって遮られていた太陽光が、その熱を段々と上げていき容赦なく照りつけてくる。
 日に焼けた砂は燃えるようにその色を紅く染め、ブーツの底からより一層熱が伝わってくる。太陽光と熱砂のサンドイッチで私の体力はガリガリ削られていた。此れは堪らないと見つけた岩場を背にして休息をとる。

 反響からして多くの生物は地中深くに潜んでいるようだ。地中までは熱は通らないのだろう。あ、オリジムシが溶けてる。

 この分だと日が落ちるまでは動けそうにないな。バッグから冷却装置を取り出して体を冷やすことにした。冷却装置といってもその役割はアーツの補助具だ。セーフハウスに居た時に、振動を抑制すると空気が冷えることを私は発見した。
 かと言ってその空気を動かすには私はまだ練度不足であるし、自身にやったらそれこそとんでもない事になるしなった。故に其の空気を動かす装置を作って問題を解消した。冷却装置より送風機と呼んだ方が良いかもしれん。

 冷えた空気が熱で火照った体を冷やしていく。序でに焼けた皮膚に火傷治しの軟膏も塗っておく。日焼けって放置すると結構危険らしいね。サバイバルブックに書いてた。

 ひんやりとした岩の感触を楽しんでいると日が落ちて辺りが暗くなった。熱されていた砂はその熱を急激に奪われていき固まり縮こまっていく。普段の夜とは格段に冷えた風が吹く。初めての事ばかりだなと冷風に身を震わせて体を暖めた。
 そろそろ歩こうと思えば反響が空より飛来する大量の何かを感知した。咄嗟に岩の窪みに身を潜めると、辺りに水滴の跳ねる音が聞こえた。一つや二つ、ではなく大量に。この枯れ果てた大地でだ。

[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/3

[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク
携帯アクセス解析