EP.04 合縁奇縁
水でも与えようかと水筒を取り出すと、其の軽さで昨日飲み干された事を思い出した。補充するかとアーツで地面を50cm程掘り起こし固めておき、其処に地下水を引き上げて水を貯めた。
さあ飲めと鳥野郎に目を向けると頑として飲もうとしない。拗ねたかと濾過装置で水を清めて水筒を満たそうとしたところ、間に嘴が割り込んで注いでいた水を飲み始めた。泥水は嫌だってか。贅沢な奴だねえ。
水をたらふく飲んで落ち着いたのか岩影に行って毛繕いをし始めた。お前落ち着きすぎな。其れに鞍とか着けているのに毛繕いして意味あるのか? 取り敢えずバッグは下ろしておいた。犬っころどもも呑気に寝ているし動物は人間を舐めているに違いない。
しかし日が一度も落ちないで休息とは初めての事だ。鳥野郎の体力が戻るまでこんな日が続くのだろう。先を急がぬ旅、其れもまた一興か。直ぐに飽きそうではあるが。
***
鳥野郎の体力が回復すれば半日程歩いて休憩。其れを三度繰り返して漸く山の麓を目前にした。踏み締める地は湿り気を帯びている草で覆われ、低木が群生しておりあたかも別世界に来たようだった。舞う砂塵もなく、砂で足が取られる心配も無い。なんと進みやすいものか。
中には実を付ける植物があり、一つ摘まんで口に含めば初めて感じる甘味が弾けて溶けていった。鳥野郎も好んで食べ、見つけ次第駆け付けては貪り尽くして丸裸にする程だ。目先の欲に駆られては棘に刺さって泣きわめくのを見るに、其処まで賢く無いのかもしれない。刺さった棘を抜く身にもなって欲しいな。
目前にした山を見上げれば、遠くより眺めていた山峰は分厚い雲に遮られ見えなかった。だが、其の山の雄大さは褪せることなく主張し、此れを登るのは骨が折れそうだと私に思わせる程だ。
此れを登頂するのは鳥野郎には無理だろう。二本足では岩を一つ越えるだけでも苦労する。此処まで連れてきてなんだが置いていくしかあるまい。無理にでも連れて行くのは何よりも鳥野郎の為にならん。其れに私も其処まで面倒を見れなかったし、見るつもりもなかった。
鳥野郎からバッグを下ろせば休憩だと勘違いしたのか、鳥野郎は嬉しそうに鳴き声を上げてバタバタと小躍りし始めた。何とか宥めて鞍と轡を外して其処らに投げ捨てる。此れでコイツは自由の身だ。好きに生きろと私はソイツに言い、背を向けて山を登った。
背後よりクエックエッと独特な鳴き声が聞こえる。何其れ初めて聞いた気がする。思わず振り返りそうになって、止めた。彼の間抜け面を見たら連れていきたくなるだろう。其れは、きっといけないことだ。そう思うのだ。
歩みを再開すればまた彼の鳴き声が聞こえてくる。後ろ髪を引かれる思いをしながらも、私は頑として振り返りはしなかった。
***
Tips.鳥野郎の好物
・トゥナ。言うなればサボテンの実。サボテンの中でもウチワサボテン属のサボテンが実らせる果実、らしい。現実の市場に有るのは大抵棘無しに品種改良されたものだそうだ。野生のは棘が結構あるっぽい。水分を多く含み、健康にも良い為、砂漠において頼りになる食べ物だろう。
過酷な環境において数十年もかけて花を咲かせる事は容易ではない。其れでもなお、根強く生きて花を咲かせるのだ。生命を注ぎ込んだ果実が美味である事も頷ける。
棘が鬱陶しい? 美しい薔薇に棘が有るのなら、美味しい物にも棘が有っても可笑しくはないだろう。
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