ハーメルン
君と夢見た明日へと ──トップウマドルを目指して☆──
【第4話】芝と砂 ②涼やかな太陽
スターウマ娘たちの共演に、会場のボルテージは最高潮に達しようとしていた。
もちろん俺とファル子も例外では無い。立錐の余地もないその空間で、二人のテンションは上がりに上がっていた。
「やっとスズカちゃんだねっ! ワクワクが止まらないよ〜☆」
「ああ、楽しみだな…!」
最後の曲は『winnning the soul』。サイレンススズカが大トリを飾るとあって、寄せられる期待の大きさはひとしおだ。
その証拠に、観客からスズカコールが自然と巻き起こり、決して鳴り止もうとはしない。
俺たちは今、東京レース場に来ている。
それは時を遡ること数時間前、ファル子のライブが終わってからのことだ──
「ウマ娘ライブショー in 東京?」
商業施設の立ち並ぶ幹線道路沿いの歩道。並んで歩く少女のツインテールが激しく揺れる。
「え〜!? ほんとに知らないの? 去年から始まったイベントだよ」
口に手を当て、目は見開かれ、尻尾が天を衝く。思いの外ショックを受けているように見える。
二人だけのライブの後、東京レース場にどうしてもついてきてほしいという彼女たってのお願いを無下にするわけにもいかず、そこへと向かっていた。ただ、今の時期はレース未開催期間であり、何のために行くかと尋ねたら、この反応であった。
彼女の話によれば、東京レース場で活躍したウマ娘たちが、レース無しでライブだけを行うという催し。つまり、混じりっ気なしの純粋なライブが行われるらしい。
出演者はファン投票によって選出されるため、ファンへの感謝の意味合いが強いイベントだという。
URA本部のお膝元であり、数多の伝説的なレースを生み出してきた東京レース場。トレセン学院と同じ市にあるそれは、徒歩でも行ける距離にある。ウマ娘の足ならそれこそ軽い散歩感覚だろう。
ファル子はルンルンと鼻歌交じりに、今にもスキップを始めそうなほど軽い足取り。俺の歩調に合わせてゆっくり歩いてくれているのだと思う。
スマホでそのイベントについて調べてみると、試験的に去年から東京レース場で開催されたらしく、今年からは他のURA管轄の主要なレース場でも順次行う予定らしい。
「へぇ…凄いメンバーだな」
「でしょ? 見に行かなかったらぜ〜ったい後悔しちゃうよ」
出演者は去年の日本ダービー、秋天、ジャパンカップなどのG1覇者をはじめ、東京レース場の名だたる重賞競走で活躍したウマ娘たちばかりだ。
もちろん、昨年の秋天覇者、サイレンススズカもその名を連ねている。まさに、お祭り、オールスターといった面々だ。
普段からレースのことは気にかけているが、不覚にもそんなイベントがあるとは知らなかった。
調べれば調べるほど、意外にも大規模なイベントであることを知り、不安がよぎる。
「こんな一大イベント、予約や前売りチケット無しで入れるのか?」
赤色に染まる歩行者信号を前にして、二人はぴたりと歩みを止める。
当然のことながら、そんなものは持ち合わせていない。
「えっへん☆ チケットは二枚ありま〜す!」
いつの間に取り出したのか、その手には二枚の入場券が握られていた。これ見よがしにひらひらとひけらかしてみせるその表情は、まさにドヤ顔だ。
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