ハーメルン
君と夢見た明日へと ──トップウマドルを目指して☆──
【第5話】泥だらけの夢 ③担当以上恋人未満
「『お』から始まる場所かぁ…」
すっかり黄昏れた窓の外。そこに視線をやりながら、何やら考え込む一人の少女。
駅前で繰り広げられた競走に一方的に勝利した彼女は、それによって得られたヒントから行き先を推理していた。
「う〜ん、やっぱりこれだけじゃ分かんないよ。もうちょっと良いヒントくれない?」
しばらく考えた後、あっさりさじを投げてはいたが。
がたがたと規則的に音を立てて揺れる車内。吊り革に掴まる人がちらほら見受けられる中、座席を確保することができる程度には運が良かった。
窓を見やると、悪天候のせいか、外はもうかなり暗くなっている。無数の建物の光やネオンサインがその存在を主張するが、あっという間に横切っていってしまう。何の光もない黒い背景には、自分たちの姿が鏡のように映し出される。
横に視線を移すと、そこにはぴったりと隣に座するツインテールのウマ娘。彼女の腰辺りに佇む毛づやの良い尻尾は、車内の白い照明をてかてかと反射している。
「仕方ないな。それじゃ、二つ目のヒントな。そこは多分、ファル子の好きな場所…かな」
「好きな場所かぁ。これって都心の方に向かってるでしょ? ということは…分かった! 表参道でしょ☆」
人差し指を立てて、自信満々に解答する。
「残念だけど外れだ」
「えーっ! 違うの?」
「今からそこに行って何するんだって話になるし…」
「だってファッションとかグルメとか、流行最先端のおしゃれスポットだよ? だからファル子にぴったりのおしゃれ蹄鉄シューズでも探しに行くのかなって☆」
お祈りの時のように両手を組みながら、自分の世界に入り込んだかのごとくうっとりとした口調。確かにあそこは年頃の女の子にとって特別な場所なのかもしれない。
(まぁ、今日は無理だけど、蹄鉄シューズを探しに行くのはありかもしれないな…)
おしゃれかどうかはともかく、本格的にレースに挑むことを考えれば、いずれ靴を新調しなくてはいけないことは確かだろう。芝用とダート用で、蹄鉄シューズに必要な要素は変わってくる。
ふと、電車がそろそろと減速し、間もなく次駅に到着することを告げる。
「それじゃ、最後のヒントな。そこは、ウマ娘にとても関係のある場所」
それはヒントというより、もはや答えだったかもしれない。その証拠に、彼女は考える素振りすら見せず正解に行き着いた。
「あっ…もしかして、大井レース場?」
「ああ、今夜ナイターのレースがあるんだ」
寸分の狂いなく定位置に停車する電車。
開閉音と同時にすぐ側で扉が開き、湿った空気が肌をじとりと撫でていく。後二つ先の駅で乗り換えだ。
「東京レース場は好きだけど、大井レース場はどうかなぁ…一度も行ったことないんだよね」
「まぁ、扱い的にはローカル・シリーズだしな」
発車メロディが密かに鳴り終わると、扉はゆっくりと閉まる。そしてすぐさま次の目的地へと出立する。
大井レース場はダートコースしかないレース場。おそらく彼女が最も無縁だと思っているレース場だ。
東京レース場を始め、URA管轄のレース場で行われるレースをトゥインクル・シリーズと呼ぶに対し、URA管轄ではない場所で開催されるそれはローカル・シリーズと称される。大井レース場はそのローカル・シリーズの代表的なレース場のひとつだ。
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