ハーメルン
<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する
8話 泥と鼠 4
■【呪術師】クリアント
「ところで先輩」
「……どうした」
「別に言わなくても良いことだったんですけど。やっぱり良い機会なので言わせてください」
神妙な声でワンプが話しかける。
ちなみに、この場にワンプの姿はない。
ワンプはTYPE:メイデンwithテリトリーのエンブリオである。
戦闘開始時にクリアントの周囲に溶け込むように消える。
故に、目も口もないはずなのだが、メイデンの特性故か、見ることも話すことも出来る。
モンスターに襲われる心配がないという利点はあるが、知らない者からすればクリアントが戦闘中に独り言を呟いているように見えるかもしれない。
「先輩が気にされていた、残っている先輩の死体。あれ、私が任意で消そうと思えば消せるんですよね」
「……そうなの!?」
そういう仕様なのかと思っていたが……ならばなぜ、とクリアントは疑問に思う。
その必要性があったのかと問われれば、マッドラップスの毒の特性を知るまでは無かったはずだが。
「ちなみに残していた理由は……」
「先輩に自分の死体見てもらおうかなって。特に理由はないですけど」
「うん……」
ワンプらしいというかなんというか。
だが、特に理由は無いということは、死体を出し入れするのに特に制限も無いようだ。
それはクリアントにとって都合がいい。
「……死体には耐久値みたいなものが設定されているってことでいいんだな?」
「はい! 先輩が死ぬと死体に新しく耐久値が設定されます。死体の損壊具合で耐久値も変動しますが……すでに死体なので耐久値は生きてるときの先輩よりも高いことが多いです」
「……」
「……先輩? もしかして死体出しっぱなしにするの嫌でした? ……消しましょうか」
黙ったままのクリアントを気遣ったのかワンプは提案する。
だが、違う。
クリアントは己が策について考えていた。
「いや……いい。このままだ。むしろ死体をなるべく残し続けたいんだが……出来るか?」
「はぁ……まあできなくはないですが。死体の耐久値を上げるってことですよね? 流石に倍とかまではいきませんが、少しだけでしたら」
「少しでいい。なるべくでいいんだ」
残り4回……4つの死体。
これらを有効活用しなくてはいけない。
「〈エンド・カースド〉、〈カースド・クイック〉」
クリアントは駆けだす前に2つのスキルを発動する。
1つ目はこれまで何度も使っている〈エンド・カースド〉。
どうせ死ぬのだ。ならば死亡時のダメージは与えておかなければ。
ダメージ量はいくら稼いでおいても損はない。
そして2つ目。
こちらは【呪術師】としては、呪う専門の術師としては分かりやすい。
速度低下の呪いの付与である。
対象のAGIに対するデバフ。
攻撃力や防御力に関するスキルもあるが、どうせ多少攻撃力を減らしてもクリアントにとっては致命的であるし、呪いによるダメージが主であれば防御力は関係ない。
だが、速度を下げてしまえば……元から本体のステータスがUBMの中では低いマッドラップスである。何とか目で追えるようになるし、本体を狙うことも出来る。
「Goa……?」
[9]前話
[1]次
最初
最後
[5]目次
[3]栞
現在:1/3
[6]トップ
/
[8]マイページ
小説検索
/
ランキング
利用規約
/
FAQ
/
運営情報
取扱説明書
/
プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク