ハーメルン
<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する
7話 泥と鼠 3

■【呪術師】クリアント

 5度目の死亡。
 未だマッドラップスへ近づくことさえ許されていない。
 全て射出された針による肉体の猛毒への変性によって死んでいた。

 だが、確実に死ぬペースは落ちてきていた。
 それはクリアントが針を見切り始めたから……ではない。
 マッドラップスはUBM。その針の速度も亜音速以上の速度を以て対象に到達する。
 クリアントにそれを見切る術はない。
 防ぐ術もない。
 それでもなお、クリアントが死ぬペースが落ちている理由は、マッドラップスが針を射出する頻度が減ったからだ。

「Gooooooo……」

 明らかに警戒を剥き出しにした唸り声をあげ、マッドラップスはクリアントの周囲を歩く。
 HPは半分を下回っている。
 先に行われた戦闘で他〈マスター〉やティアンが削っていたのだろう。
 無謀にも思われた戦いも無駄ではなかったことが伺われる。
 だが、マッドラップスにとって、すでに死んだ彼らよりも警戒対象は現在相対するクリアント。
 殺すと確実に生き返り、そしてダメージを与えてくる目の前の人間の扱いに困惑していた。

「このままじゃ……駄目だよな」

 一方でクリアントも攻めの一手に欠けていた。
 死亡してもその場での復帰。そして【呪術師】による死亡時のダメージスキル。
 この2つを以てしても、クリアントがマッドラップスを倒しきることは出来ない。

「はい……思っていたよりもネズミのHPが増えていますね」

 対【マッドドロップマウス】用に考えていた策。
 それはマッドラップスと成った今も使えはする。
 要は、殺されればいいだけなのだから。
 第二形態となったことで、肉体創造も5回から10回へと増えた。
 5回死んだところでまだ半分ストックが残っている。
 あと5回分の〈エンド・カースド〉によるダメージで倒しきる……とはいかない。
 
 UBMへと進化し、おおよそのリソースが特殊な能力である毒変換を付与された針となろうとも、ステータスも上昇している。
 他のUBMと比べれば低いHPであっても、【マッドドロップマウス】と比べれば差は歴然。
 本来であれば10回分の〈エンド・カースド〉によって倒しきれると思っていたHPもUBMとしてのHPとなっては削り切れない。

「……最初から減っていたから何とかなるとは思っていたんだがな」
「もうちょっと頑張れって言いたいですよねー」

 そんな、見ず知らずの犠牲になった他人に対してのコメントである。
 ……個人として現在最もマッドラップスのHPを削っているのがクリアントであるため誰も文句は言えないのだが。

「まだ俺の死体溶けてるよ……毒の持続時間は長いみたいだな」
「というよりもあれ、先輩対策みたいじゃないですか? 復活しても毒が肉体に残っていれば、また毒に蝕まれる。超速再生とか蘇生系の能力を持つ相手に対して有効な手段ですよね」
「……マジかよ」

 クリアントは苦笑する。
 毒の厄介さとしつこさ、そしてそれが己のために作られたような力であることに。

「でもネズミも先輩の……というかワンプちゃんの能力のタネは知らなかったみたいですね。新しく肉体を創造する……つまり、毒に蝕まれた肉体とは別の肉体を用意するってことですから。いくら死体に毒が残り続けようとも、新しい体の先輩には効かないってことですよ」

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