ほんの少しの調味料で味は変わる。
中間試験が終わり、六月の頭。試験が帰ってくる頃の朝のホームルームの時間。担任の先生が、教壇に立つなり言った。
「よし、席替えやるか」
その声に、教室内がざわつく。小学生の頃から、席替えは誰もが好きなワクワクイベントだ。それは中学でも高校でも変わらない。
しかし、菅谷はそればっかりではなかった。一番前の席だが、隣に透がいたからあまり気にならなかった。……まぁ、前だろうと後ろだろうと、授業はあまり聞かないのだろうが。
席替えになってしまったら、透から離れてしまう。勿論、席替え後に透か円香のどちらかと隣になれる可能性はあるが、それでも15分の2の確率だ。
「……ま、いっか」
どの道、透とは別に授業中、たくさん話していたわけではないし、理科の実験の時はそれなりに話したけど、それ以外の時はお互いに寝てたり、黒板の模様で顔っぽいの探してたり、たまに教室に入って来た蟻を観察していたし、特に感慨深くもない。
先生が即席で作ったくじを、透の列から縦に且つたがい違いに回し、各々が引いていく。
そして、菅谷の番になった。
「……」
適当に一つ取って、次の列に回す。中を見ることもなく待機。ぼんやりと天井を眺めていると、唐突に全員が動き出す。引き終えたようだ。
そこでようやくくじの中身に目を落として、黒板に出ている席順を示した四角の列に書かれている番号を見る。
窓際、一番後ろと言う中々の席を手に入れた。まぁ中学の席順は、男子の列と女子の列が交互に並んでいるため、窓際から二番目、と言うのが正しいか。
何にしても、居眠りにちょうど良さそう……なんて思いつつ、移動を完了して席に着いて待機。
すると、隣に来ていた女子生徒がピタッと動きを止める。
「……」
樋口円香だった。心底嫌そうな顔でこちらを眺めている。
「あっ、ヒグっさん」
「……え、あんたそこ?」
「? うん」
「……」
軽く手を振ると、円香は仕方なさそうに隣に来る。
「はぁ……窓際の最後尾を手に入れたと思ったら……」
「良かったー、知らない人だったら教科書忘れた時、見せてもらえなかったから」
「私は見せないから」
「浅倉はどこいんの?」
「知らない」
冷たく言いながら、席に座った。
「うーし、じゃあ一時間目は英語だから。お前らちゃんと準備しとけよ」
それだけ言って、さっさと退散してしまう担任を眺めつつ、菅谷は隣の円香に声をかける。
「……英語だっけ、今日?」
「そうでしょ」
「公民じゃなかった?」
「一時間目に公民があるのは火曜だから」
「……今日何曜だっけ」
「月曜日。月曜日、見失う人とか中々いないと思うけど」
「マジか」
「……」
「……」
「見」
「せない」
完封で黙らされた菅谷は、どうするか腕を組んで考え込む。教科書の業者に電話するか、或いは先生に予備がある確認するか……どっちも面倒だ。
「あ、浅倉に借りれば良いのか」
「馬鹿なの? あんたが使う時は浅倉も使う時でしょ」
「む、そうか……ヒグっさん、頭良いね。流石」
「どんなに褒めちぎっても、見せないものは見せないから」
「……」
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