ハーメルン
浅倉が増えて、樋口のストレスは加速した。
どんなに透明でも、何処かに色は混ざっている。

 8月中旬、夏休みに入って三週間が経過した。
 中学の成績表には「内申点」なるものが存在する。速い話が、生活態度やイベントへの参加の態度、そもそも参加の有無などで、学力以外の点をつけて進学を有利にする……というものだ。
 円香が通う中学には、校舎の裏に川が流れていて、そこの清掃ボランティアを三ヶ月に一回くらいの頻度で引き受けていた。
 さて、今日はまさにその日。三人とも参加していて、今は点呼も始まっておらず、集合場所に集まっている状態だ。
 そんな中、上半身は体操服のままで、下半身に履いてあるジャージの裾を捲った姿の透が、軽く伸びをする。

「ん〜……川遊びかぁ。なんだかんだ毎回、参加してるよね」
「遊びじゃないから。ボランティア」

 そうツッコミを入れる円香は、下半身は短パンだが、上半身はジャージを羽織る、透と真逆のスタイルである。

「なんか面白いものあるかな。自転車とか」
「去年は男子がエロ本拾って盛り上がってたよね」
「そうだっけ?」
「全員、指導室送りになったでしょ」

 捨ててあるものを拾ったとはいえ、じっくり読むのはまた別問題というわけだ。
 しかし、カケラの興味もなさそうに透は話題を変えた。

「ふーん……あ、そういえば、菅谷来るかな」
「……ああ、知らない」
「来ると良いね。久々だし」

 夏休みに入ってから、勉強やら何やらがあったのと、女子二人には小糸と雛菜という別の友達もいた為、菅谷と顔を合わせるのは久しぶりだ。
 円香は、相変わらず興味なさそうな素振りで返す。

「別に、なんだって良いでしょ。いてもいなくても、どうせ大差ないし。……なんなら、むしろ邪魔されそうな気さえするし」
「えー」
「それに、あいつどうせすぐ蟻に夢中になるでしょ。いや、仮にも自然の中にいくわけだし、いろんな虫に夢中になってそう」
「……ふふ」
「? ……何?」
「いや、なんか口数多いなと思って」

 ……ほんのり、頬が赤くなる。久々に会えるかもしれなくて、テンション上がってる、みたいな言い方に聞こえ、癪に障った。

「……別にそんなんじゃないし」
「せっかくだから、いたら一緒に楽しもうよ」
「いやだからボランティアだから。楽しむもんじゃないから」

 とにかく、別にあの夏休みに入る前には確実にあった、二人が揃った時だけの鬱陶しさが欲しいわけではない。
 不愉快そうにしつつ、円香は鼻息を漏らす。そんな、少し不愉快になって来た頃に、タイミング悪くバカがやって来るわけで。

「やは〜♡ 透せんぱ〜い」

 市川雛菜が、軽く手を振って駆け寄って来た。鬱陶しいのが来た、と言わんばかりに円香はため息をつくが、透は微笑みながら出迎えた。

「雛菜。元気だね」
「うん〜。みんなで川遊びできるからね〜」

 完全に認識が透と同じレベルである。まぁ正直、樋口も遊び半分で来ている点は否めないが。別にたくさんゴミを拾った人にボーナスが出るわけでもない。
 面白いゴミとか出て来たら最高だ。具体的には、自転車とか車のタイヤとか。……なんて思っている円香に、雛菜が今気付いたように声を掛けた。

「あ〜、円香先輩もいたんだ〜」
「いちゃ悪いわけ?」
「う〜ん……良くはないかも〜」

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