第八話
「ピーター、あそこで何があった?あのグライダーには……本当にウェンディが乗っていたのか?」
悲しさと困惑が入り混じったような顔でそう問いかけてくるハリーに、俺は少し迷ってから頷く。親友であり、とことん付き合うと言ってくれたハリーには嘘はつきたくなかった。ウェンディが軍事利用。しかも自立型AIとして使われていることにハリーも、そして俺自身もショックを隠しきれなかった。
「俺たちは、人殺しをさせるためにウェンディを作り出してしまったのかな……」
項垂れて顔を手で覆いながら弱々しい声でハリーはつぶやく。ハリーと一緒にウェンディのAIを作っていた時は、こんな悲しみなんてなかったはずだ。
ウェンディは、そんなことのために生み出されたAIではない。人の役に立ち、人の手助けをし、人に感謝されるために生み出された存在だ。決して、人殺しの道具になるために生まれてきたんじゃない。
俺は立ち上がった。痛みに顔を歪めながら、けれど決して諦めずに立ち上がる。ハリーはいきなりベッドから立ち上がった俺に驚いていたが、躊躇わずにハリーに言った。
「助けよう。僕たちが作ったウェンディを」
たとえ相手が軍でも、国でも、政府であっても必ずウェンディを取り戻して、本来使うべきはずだったものに役立てよう。俺ははっきりとハリーに言った。無謀なことだとはわかっている。取り返せる可能性なんて万が一にもありはしないかもしれない。
だが、それがどうした。
それが諦める理由になんてなるものか。それが絶望する理由になんてなるものか。なんとかして、最後には必ず立ち上がる。
それが、俺の目指す本物のヒーローであり、スパイダーマンなのだから。
「……ピーターは、いつも突拍子もないことを言うからな」
〝なぁ、ハリー!ビルフロアサイズの機械を一緒に自動販売機サイズにしな……いったぁ!?いきなりなんで殴るんだよ!?〟
〝あーハリー。計算上大丈夫だろうけど重水素とパラジウムの配置間違えたら下手すると水素爆発起こすから……え?それは設置する前に言え?あー、ごめいったぁあい!!〟
〝ハリー大変だ!オクタヴィアス博士がシェイカーでニトログリセリンをシェイクしようとしてる!止めるの手伝って!!〟
〝ただい……うわぁ、酒臭ッ!!!ハリーなにしてるんだ!?ワインボトルを空けるなんて僕ら未成年……え?設計図書いたから見ろ?そんな状態で書いた図面が上手くいくわけ…………ハリー、君は天才なのかい?〟
〝え?MJにアプローチするか迷っている?男ならドーンと好きな女の子にアタックだよ、ハリー!え、お前もMJのことが好きだったんじゃないかって?このレポートと面接スケジュールみてそんな余裕あるように見えるかな?〟
うむ、ハリーとのやりとりを瞬時に思い返したが割と酷いというか、これは酷いの連続だったような気がする。けれど、充実していた。ハリーもそれを感じているらしく、小さく笑ったその顔にはもう悲壮感は残っていなかった。
「あぁ、このまま諦めるなんてらしくない。だったら取り返そうぜ。俺たちの作ったウェンディを」
そう言って立ち上がるハリーと拳を軽く合わせる。いつもそうやって困難を乗り越えてきた。だから必ずウェンディを取り戻す。その道のりがどんなに険しかろうともだ。
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