第十一話
そこからのことはあまり覚えていない。まるで夢でも見てるかのような感覚だった。
気がつけば家に帰っていて、気がつけば叔父の葬儀が終わっていて、気がつけば叔父の墓の前に一人で立っていた。
思い出せる限りの中で、メイおばさんはずっと言ってくれた。ピーターのせいじゃないと。叔父さんは最後まで、俺がやってきたことは間違っていないと言ってくれていたこと。そして成したことに対する大いなる責任についても、ピーターはよく理解できていると言っていたそうだ。
その言葉すらもあやふやで、まるでもやが掛かっているように掠れていくような気がした。
ただ、はっきりと覚えているのは夜の家の中で、メイおばさんが一人で泣いてるところだった。どうして私を置いて逝ってしまったの。どうしてこんなことに。どうして……あぁ、神様、どうして。
自分に対して、途方もない怒りがあった。メイ叔母さんは、ピーターのせいではないと慰めてくれたが、なんでこんなことになったかと問えば、それは俺が有名になってしまったから。アークリアクターなんてものを開発してしまったから……それを望むもの、奪いたいもの、独占したいものが多かれ少なかれ存在していることだ。
そいつらはどんな手段でも容赦なく使ってくる。悪党や犯罪者を使ってまた生活を脅かしてくるだろう。そして、それを呼び込んでいるのは紛れもなく俺自身だ。
叔父の墓の前で多くのことを考えていた。犯人が言っていたオズコープのこと。ノーマンが主犯だということ。そして誰かがアークリアクターの秘密を狙っているということ。
手に握っていた新聞はぐしゃぐしゃになっていたが、その一面にはオズボーン・スキャンダルと書かれた一面が大きく書き出されていた。
若き天才、その才能をみたノーマン・オズボーンは嫉妬に狂い、その青年の家を強盗に扮した企業スパイに襲わせ、彼の唯一の叔父であったベン・パーカーを殺害させた。事件後の彼は行方をくらましており、オズコープは役員会議にて、全会一致でノーマンをオズコープから追放させることを決定した。警察やCIAもノーマンの行方を追っているが未だに手がかりはない。
デイリー・ビーグルを始め、ニューヨークタイムズや他の新聞社も同じようなことを書き出していた。その新聞を見てショックを受けたメイおばさんは余計に心労が酷くなり、一時は一人で立って歩くことすらできない危険な状態まで陥っていた。幸い、今は回復しておじさんの葬儀は家族のみで執り行うことになった。
叔母さんは神父の方や葬儀関係者と一緒に先に家に帰っている。叔母さんは俺が無理を言ってすぐにセキュリティがしっかりとしたマンションに引っ越してもらうことになっている。今の家は俺の部屋を除いて空き家同然だった。
「ピーター」
さわさわと新緑の葉が風で揺れる音が聞こえる中、俺を呼ぶ声が聞こえた。振り返るとそこには、ハリーとオクタヴィアス夫妻が立っていた。
ハリーは件の記事のせいで身を隠さざるを得なくなり、しばらくの間はオクタヴィアス夫妻の元にいたらしい。格好も喪服ではなく、目立たないジャケット姿にサングラスと帽子を深く被っていた。
「ピーター……なんて言えばいいのか……ずっと考えていたけど……俺は……」
「ハリー。いいんだ」
言葉に悩んでいるハリーに振り返らずに言う。ハリー自身も、あの新聞の記事や、オズコープを追放された上に行方を晦ましている父の行動に戸惑いを隠せていないのだろう。
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