第十五話
「こっちだ、ピーター」
ノーマンが囚われていた牢獄から脱出した俺は、彼の案内のもとオズコープの地下施設にあるウェンディの制御ユニットがある隔壁に向かって進んでいた。牢獄に着いた時点で俺はマスクを外してノーマンに正体を明かした。というか、隠す以前にこの格好をしてスパイダーマンとして活動するのは今回が初めてなので隠していた訳でもない。
オクタヴィアス夫妻やハリー、ノーマン、そしてグウェン。今のところ、この五人がスパイダーマンの正体を知る人物であり、巻き込んだ以上、この人たちに正体を隠すつもりはなかった。
ノーマンは終始驚いていた様子だが、スパイダーマンスーツがハリーとオクタヴィアス夫妻のお手製だと言うと何故か納得してくれた。スパイダーマンの能力についてはノーマンは深く言及せず、とりあえずここから出たら色々と話を聞かせてほしいらしい。
地下施設の通路に出て、監視カメラが停止している間にウェンディの隔壁エリアへと足を進めてゆく。あと数ブロック先というところで、ノーマンが急に足を止めた。
「ピーター……私は君に謝らなければならない。私が愚かだった。あんな者たちに君たちの未来ある実績を売り捌いてしまった……」
ウェンディを取り戻す前に話をしておきたかったとノーマンは言う。オズコープの役員が、ウェンディを購入した軍部に掌握されていたこと。彼らが産業スパイに見立てた刺客で俺に危害を及ぼしたこと。そして叔父を殺害されたことにノーマンはひどくショックを受けていた様子で、打ちひしがれたような表情をしていた。
「私は戻ったとしても、オズコープを退くつもりだ。今回の件の責任も私が負う。君の叔父を奪ったのは……私で……」
「オズボーンさん」
謝罪と責任を取ろうとするノーマンを俺はマスク越しに言葉を遮る。報道やオズコープからの仕打ちでノーマンも精神的に参っているように思えた。なにより、彼が全部の悪の責任を取る必要はない。そんなことを求めるために俺はこの場に来ていないのだから。
「……貴方がしたことは間違いじゃありませんでした。現に貴方の決断で救われた人々はいます。それに嘘偽りなんてありはしません」
「だが、ピーター……科学者には責任というものがあるんだ」
「何を言ってるんですか。一度の失敗程度で何もかも諦めていたら何もできませんよ。僕とハリーとオクタヴィアス博士なんて失敗の連続でした。一番酷かったのはトリチウムのエネルギー抽出式を間違えてラボ内に特大のカーブラックホールが爆誕しようとした瞬間でしたね」
あの時はマジで大変だったと今になって振り返る。ノリと勢いでテスト品を作って、とりあえずテストだ!とノリノリで三人で起動実験をしたら、トリチウムの抽出エネルギー量のキャパが超えており、ハリーが咄嗟に非常放電ユニットを作動させていなかったら今頃ニューヨークの街はグラウンドゼロとなっていたに違いない。
そう過去の過ちをしみじみと振り返ると、話を聞いていたノーマンが少し引いていた。ゴホン、と気を取り直してノーマンに改めて向き直る。
「オズボーンさん。叔父は最後まで僕らの成果を誇りに思ってくれていました。もちろん、僕らを支えてくれたオズボーンさんも。メイおばさんも、そして僕も、ハリーもオクタヴィアス博士も、みんな貴方に怒っても、恨んでもいないんです」
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