第一話
ノーマンからインカムを受け取った将軍は遠慮なく自身の思考の中で思いついたレイアウトを選択し、その中でグライダーを飛ばし続けた。結果、どんな実験レイアウトでもグライダーは接触や激突をすることなく通り抜けてみせたのだった。
「ユニット内には小型の光学レンズカメラと、物体感知センサーが内蔵されており、対象の動きや反応、熱すらも感知できます」
あくまで試作品ですが、とピーターとハリーがこのロボットを持ってきたときに言っていたセリフをノーマンは飲み込んだ。これは社運をかけたプロジェクトだ。大口顧客である将軍らが手を引いて、ライバル企業に乗り換えられてしまえばオズコープに未来はない。
支援ユニットの性能を見た将軍は、さっきまでのつまらなそうな顔が嘘のような笑顔でノーマンに握手を求めた。
「……素晴らしいな、オズボーン君。君を見誤っていたよ」
「恐縮です、将軍」
「ところでこれは、思考プロセスも自立化させることはできるのかね?」
「いえ、あくまで指向性のみです。思考プロセスは操作者に委譲されます」
そう言うルールでピーターとハリーはこの支援ユニットを制作したのだ。これはあくまで人が命令を下し、それに応えることができる機器なのだ。人が使う機械に物を考えさせるのはナンセンスだとピーターは早々に自立思考という分野を切り捨てた。
機械や薬品はあくまで人の生活を豊かにし、支えるためにあるのだと言って。
だが目の前の顧客はそんなことはどうでもいいと言わんばかりにこう言った。
「では、オプションで自立思考プロセスも組み込めるようにしてくれ」
「……将軍、それは機械に物事を判断させるという解釈で正しいでしょうか?」
「ああ、そうだ。自分で考え、その最適な行動を自分で選択できる。軍は人件費が高くつくからな。それさえできれば戦場に貴重な人材を送り込まなくて済むであろう?」
「しかし、データベースの構築からになります」
「無論、支援は惜しまん。それに情報ソースなら我々が提供しようではないか。戦場という坩堝でな」
そう言い残して、将軍は大口契約のサインに署名をして部下を引き連れてオズコープを後にした。彼らの見送りをした後、ストローム博士が心配そうに問いかけてくる。
「ノーマン……本当にこれでよかったのか?」
「あぁ会社は守られた。……パンドラの箱をこじ開けながらもな」
息子とその友が生み出したものを、ノーマンは分かっていながらも軍へと提供したのだ。
それがのちに、ニューヨークを恐怖のどん底へと陥れる〝ウルトロン・オートマトン事件〟に繋がることになるとも知らずに。
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