小話
トントン、とスローカム将軍はテーブルに置かれているノーマンの写真を指先で叩いた。プロジェクト・ウルトロンに遅れが出ているのは全てこの男のせいだ。彼がウルトロンのマザーユニットに介入する限り、完全無人の自立AIは完成されない。どこかに必ず人が判断しなければならない指向性を残しているのだ。それを指摘しても彼はのらりくらりと躱して我々の思うように動かないのだ。
先日提供されたアークリアクターも簡単な部品については説明があったが、肝心のコアユニットについては全てがブラックボックス扱いだ。軍の研究員も解析を行なったが、理論が分からない限り複製も量産もできないのだ。ノーマンはその情報を開示しようとしない。もし我々が欲すれば、ノーマンは躊躇いなく法廷で争うだろう。その覚悟が提供されたアークリアクターと共に同梱された誓約書に滲み出ていた。
その姿に苛立っていたのはスローカム将軍だけではない。オズコープの役員たちも苛立ちと焦りを覚えていた。
「ノーマン・オズボーンは最早オズコープには不必要な人間です。役員たちの丸め込みもすでに整っています。彼が目をつけた若き天才たちも」
すでに役員総員の可決でノーマンを代表取締役から退任させる方向で意思は統一されている。彼を社長の座から引き摺り落とし、首にさえすればいいと、誰もがそう思っていた。
だが、事実は異なる。
ノーマンを首にしようが、彼のプライベートマネーで作られた子会社がある。オズコープという後ろ盾をなくしても、その子会社にはトリチウムの権威であるオクタヴィアスをはじめ、画期的なコクピットモジュールを開発し、アークリアクターの設計を行なったピーター・パーカーと、息子でもあるハリー・オズボーンがいる。その功績と成果で完全にノーマンを叩き潰すことは不可能だ。
だが、それはあくまで正攻法で行なった場合の話。
「彼らが開発したものはまさに革命的なものだ。だからこそ、彼らのような希望は我々が管理しなければならない。ノーマン・オズボーンではなく、我々がな」
オズコープの役員たちが黒い笑みを浮かべる中。
スローカム将軍の後ろにあるウルトロンの演算ユニットは、中央にあるカメラを赤く光らせながら見つめているのだった。
[9]前 [1]次話 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:2/2
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク