勝利の女神も
「おー、おっちゃん! 遅いわ、待っとったで……ってなんやその顔色!? 変なもんでも口にしたんか!?」
「ちょっと究極的に変な物を口にね……ほら、アグネスタキオンの……」
「ああ……そら災難やったな……まあ、なんや、ウチのたこ焼き食って元気出し、ほら」
「うん……ありがと……」
あの後、緑色の発光が収まらない自分は学園中から不本意な注目を浴びせられ続けていた。知り合いから事情を聞かれると、アグネスタキオンの一言を出しただけで先のタマモクロスのように奇怪な目が憐れみの目に変わるのがなんとも言えない。
「それより、マックイーンのレースもうすぐとちゃうんか?」
「そうだね。あの子は今準備中だよ」
「なるほどな。にしても、えらい派手にやるみたいやな。G1レースやないのに勝負服て」
「感謝祭の目玉で体操服着て走るってほうが見栄え悪くないか?」
「それもそうやな……って、なんやあれ?」
タマモクロスと他愛の無い会話を続ける中、僕と同等、もしくはそれ以上に目立つウマ娘が駆け抜けていく。
「あ、マックイーンさんのトレーナーさ……ん? なんで緑色に光ってるんですか?」
「全部アグネスタキオンのせいだから気にしなくていいよ。君の方こそ……どしたのその格好」
話しかけてきたのは、キタサンブラック曰く、ゴールドシップに連れて行かれたというサトノダイヤモンドだった。
ただ普段のサトノダイヤモンドと何が違うかと言われるとそれは明白で……
「これですか? ゴールドシップさんのやきそば屋のお手伝いをする時にこの衣装を渡されたんです。世間では売り子をする時にはこの格好をするって言われて。似合ってますか?」
「う、うん。皆注目してるよ……」
「そ、そうですか? 少し恥ずかしいですね……」
えへへ、と照れるサトノダイヤモンドだが、その服装は祭りのはっぴと穴あきジーンズ、サングラスを頭の上にかけ、何故かエルコンドルパサーのマスクをするという奇天烈なものだ。
訳の分からない嘘をつくゴールドシップもゴールドシップだが、誰もが一発で分かるような嘘を信じるサトノダイヤモンドもやばいやつ、もしくは天然なのかもしれない。
天然ほど怖いものはない。古今和歌集にもそう書いてある(書いてない)。
「なんや嬢ちゃん、おもろい格好しとるなあ。どうや、うちのとこの売り子やってみぃへんか?」
「それはすごく魅力的な提案なんですけど……今からマックイーンさんのレースを見に行く予定があって……」
「そっか、そりゃ残念や。そしたらうちも行こか。かわいい後輩達の走り、しっかり見届けてあげなな!」
店じまいを始めるタマモクロスを他所に、彼女から貰ったたこ焼きを頬張る。
うん、美味しい。
こういった機会で何度か彼女の料理を食べたことはあるが、そのどれもが乙な味である。
タマモクロスのたこ焼きを食べていると、サトノダイヤモンドが僕を、正確には僕の持っているたこ焼きを凝視している。
「ん、どした?」
「あ、いえ、トレーナーさんが食べてる物って……」
「たこ焼きの事? これがどうしたの?」
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