新たな日常
あの日の残響が、今尚胸にある。
あの日の無念が、今尚脳にある。
あの日の悔しさが、今尚心にある。
息をするのが苦しい。肺が痛い。脚が重い。
体中が悲鳴を上げ、視界が霞む。
それでも前に進まなければならない。
あの背中に、あの大きな背中に追い付かなければならない。
脚はもう限界。体力も限界。この程度でへばっておきながら、何が『最強のステイヤー』か。
今の自分を動かす原動力は、意地と根性、そして勝ちたいという欲望だ。それがなければとっくの昔に私は走るのをやめている。
必死に腕を伸ばし、少しでも抗う。
……届かない。伸ばした手が空を切る。
何度も何度も手を伸ばすが、その度に伸ばした手は空振りする。
もう諦めた方が楽なのだろう。
次がある。次勝てばいい。
そう考えた方が確実に楽なのだろう。
諦めて、諦めて、諦めて……
「走れっ! マックイーンッ!」
それでも……それでも私はっ…………!
***
第一章『マックイーンは迫りたい』
春のファン大感謝祭が終わり、数ヶ月が経過した。
その間何もありませんでしたー、というわけではなく、まだかまだかと噂されていたマックイーンの『公式』復帰戦が行われた。
感謝祭のレースはあくまでも非公式なものであるため、彼女の戦績に加算されることはない。もっとも、記録に残らないだけで記憶には残り続けるのだが。
そしてマックイーンの復帰戦に関して。
感謝祭であれだけのレースをしていた彼女だが、トゥインクル・シリーズに復帰して早々重賞レースというのも厳しいだろうと思い、まずはオープン戦で肩慣らしを提案した。
マックイーンにとってこれは良い前哨戦となるだろう。
そう思っていた時期が、僕にもありました。
『マックイーン先頭! マックイーン先頭! 並ぶ者なくゴールイン! 貫禄の強さだメジロマックイーン! 2番手のウマ娘に10バ身以上の差をつけて圧勝です! 復帰レースで絶対を見せつけました!』
今でも実況のセリフが脳の中で繰り返される。誰もがマックイーンの勝利を確信していただろうが、こんな大差で勝利するとは考えていなかっただろう。
だって、あれ……ええ……? 何バ身あったんだよ……少なく見積もっても14、5バ身はあったぞ……
これではただのタイムアタックだ。レースとかそういう次元の話じゃない。
彼女はいつも予想の遥か上を行く走りを見せる。今回も今までも、そしてこれからも。
というわけで、マックイーンがトレーニングにもレースにも完全復活したこともあり、今はグラウンドでトレーニングを行っている。
こうして普通にトレーニングをしているだけだが、怪我でそれができていなかった期間が長かったことにより、なんだか昔のような日常に戻ったような感じがする。
そしてもう一人。
この日常が昔のようなものではないと認識させてくれるウマ娘が、マックイーンにも負けない気力でターフを駆ける。
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