新たな仲間と1周年
『会社勤務の十代男性 過失運転致傷により書類送検』
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「こんばんは。こんな所で何を?」
「話し相手を探してた。御覧の通りもう間に合ってるよ」
青年は十代だった。厳つい顔の作りが彼を幾らか歳上に見せていたが、まだ社会に守られるべき年齢であるはずだった。
落ち度のない事故は、彼に前科という烙印を残した。不運は重なり、会社を追い出された彼はただ話し相手を求めた。幸か不幸か、彼にはそれをすぐにでも可能とする「個性」があった。全く同じ姿の青年は二人、そばに現れた女性に目線を向ける。
「つれないことを言うじゃないか。折角だから二対二でお見合いと洒落込もう」
女性…プロヒーロー「ダスト」は己を塵化し二つに分かち、それぞれ上半身だけの姿で再び現れる。
「!…あんたも『増える』のか…!?」
「それ大丈夫なのか…?身体が消えちまってるぞ」
「ヒーロー『ダスト』。ご存知ないかな?」
「心配ご無用そういう『個性』さ。君のように完全な形で二人になることはできないけれど」
「悪いな、世情には疎いんだ。生憎生きていくだけで精一杯だったもんでね」
「ヒーローがどうして俺に?」
同じ顔の二人が話し、同じ顔の二人が応える。奇妙な『お見合い』はしばらくの間続いた。
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「…どうだい?話に乗ってくれるかな?」
「そうだな…気に入ったよ。あんたの下で働いてみることにする。どのみち堕ちるとこまで堕ちたんだ。なるようになるさ」
「ふふ…。自分で言うのかい?まあ何にせよ歓迎するよ。これからよろしくね、仁くん」
「ああ。此方こそよろしく」
こうして迎えられた青年…分倍河原仁は、ダスト事務所の事務員として今も精力的に働いている。時折転弧の面倒を見る彼の姿は、「仁兄ちゃん」という転弧の呼び方も相まって歳の離れた兄弟を想起させた。
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「今日は朝から訓練?」
「ううん、今日は訓練はお休みだ。後は事務所に着いてのお楽しみだよ」
「ほんと!?分かった、お楽しみ!」
いつも通り転弧と事務所に向かう千雨。最近は転弧が心詠や仁に会いたがることもあり、日中は事務所で過ごすことが殆どだ。
そうこうしているうちに事務所前に到着した二人はそのまま事務所の玄関に辿り着く。
「さぁ入って。今日の主役は転弧くんだよ」
「?う、うん」
鍵を開けて事務所の扉に手を添える千雨。彼女の言葉を聞き、意を決して扉を開いた転弧の目に飛び込んで来たのは…
「わぁ…!」
普段よりも随分と派手に飾り付けられた事務所の姿。直後、クラッカーの音が部屋に響き、転弧に祝いの言葉が贈られる。
「「「1周年おめでとう(ございます)!」」」
「い…1周年?…あぁっ!」
「気付いたかい?今日で君と私が出会ったあの日から…丁度一年が経ったんだ。それを記念して、というわけだよ。勿論君を中心としてお祝いするんだけど…気に入ってくれそうかな?」
「うん!僕、すっごく嬉しい!」
「…良かった」
興奮冷めやらぬといった様子で返事をする転弧を見て、心底安堵する千雨。サプライズパーティーの常として、仕掛けられた側が喜ぶ以上に困惑してしまうという可能性は大いに考えられる。転弧が喜んでくれたことは千雨にとっても同じように喜ばしいことだった。
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