ハーメルン
すべては君のために
情報の整理


 塵堂千雨は雄英高校ヒーロー科の生徒である。とはいえすでにプロヒーロー免許を取得し、あとは卒業を待つばかりの状態ではあるが。

 「(よしよし…今日もまだ問題は無さそうだね。いやまあこの家に転弧くんがいること自体が問題ではあるけど)」

 そんな彼女が今行っていることは、不法侵入…もとい監視。己の個性を活かして、気づかれることのないよう対象たちを静かに見つめ…そのまま掻き消えるように彼らの家を立ち去る。

 「ふぅ…。発現したときは本当に怖かったけど…随分と扱いも上達したもんだよね。それに転弧くんと似たような個性だし、これって運命かも?なんて」

 事が露呈すれば間違いなく1発退学の上ヒーロー免許取消しになるであろうことを彼女が平然と行うのは何故なのか。その見えざる質問に答えるように彼女は己の状況の整理を始める。

 「(ここは『僕のヒーローアカデミア』の世界。といっても原作の開始時点よりはずっと前の時間だけど…それはむしろ私にとって好都合だった。こうして転弧くんを救けられる可能性が残されてる訳だしね。出久くんたちと同級生だったならきっと間に合わなかった筈だ。そうでなくとも燈矢くんは絶対に救けられなかった。私は本当に運がいい)」

 彼女はすでに、「原作」の改変の準備を行っている。その1つが「轟燈矢」の救済だ。もっとも、そこまで大したことをするつもりはない。個性によって起きてしまった火事に巻き込まれた彼を救い出し、轟家に送り届けるだけだ。千雨にできることはそのぐらいで、エンデヴァー…轟炎司に面と向かって「虐待反対!」などといえるような度胸は持ち合わせていなかった。

 「(それでも燈矢くんが荼毘になるならそれはもうしょうがない。そこまでは面倒見切れないよ。エンデヴァーが本格的におかしくなるのは燈矢くんが死んでしまったと思ってからだったはずだから大丈夫だとは思うけど…燈矢くん自身わざわざ弟に親の悪口を吹き込むような子だしなぁ。もうすでにちょっと歪んじゃってるよね)」

 愚痴るように心の中で呟きながら、彼女は続ける。

 「(でも仲直りしたとしてどうなっちゃうんだろう?そのままヒーローを目指すのか、諦めて別の道に進むのか。彼はお父さんに自分のことを見て欲しかっただけなんだし、後者の可能性も十分考えられるね……まあ何にせよ私の個性がこれで良かった。何度も言うけど本当に運がいいよ)」

 塵堂千雨…個性「塵」。触れたものと自らを塵に変え、さらに塵を操ることができる。小麦粉や灰なども対象。すべての塵は台風の風速にも負けない程の速度で操作でき、自らの塵は半径10km圏内にまで拡散させることが可能。そして、その他の塵に関してはその限りではない。

 「(自分自身を塵に変えるのは扱いが難しいんだよね。ミリオくんみたいに塵にしたままの部位は五感が機能しないし…でも首から上だけを元に戻せばしっかり視えるし聴こえる。これがなきゃ有名な轟家はともかく、志村家を見つけてあまつさえ監視するなんて芸当ははっきり言って不可能だっただろうね)」

 殆ど情報がない中で、千雨は日本全国を捜索して志村家を発見するに至った。発見したときにも迂闊に生身で近づくことはしなかった。

 「(「手」の件から考えるに、AFOも志村家を監視しているのは間違いない。転弧くんの事故については流石に予想外だったとは思うけど、元々彼を何らかの形で利用するつもりだったんじゃないかな…。家の中まで視られてたらもうどうしようもないけど、特に向こうからのコンタクトがないってことはバレてはないんだと思う)」

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