残された課題
その日、ダスト事務所は午前中までに全ての業務を終え、四人全員が無人島に集まり訓練の途中経過を確認することになっていた。
「それじゃ、始めて」
「はい!」
千雨に応じた転弧が手頃な流木を崩壊させる。少しずつ罅が入り粉々になっていくそれからは、ほんの少しずつではあるが地面へと崩壊が伝播していってしまっているようだった。
「以前よりずっと出力は抑えられてるけど…伝播そのものは無くせてないか」
「ごめんなさい…」
「謝ることなんてないよ。元ある個性の性質を変えるなんてのはそう簡単なことじゃない。むしろ一年ちょっとでよくここまで制御できるようになったと褒められるべきだ」
「だな。転弧が頑張ってるのは俺たちみんなよく分かってる。だから気にすんな、焦るこたない。少しずつできるようになりゃいいのさ」
「とはいえ、やはりただ制御を身につけるだけではこれは解決できない問題かもしれません。何かきっかけのようなものがあれば良いのですが…」
「きっかけ、か」
「原作」において、死柄木弔はしばらくの間…己の「オリジン」を知覚するまでの間、触れたものを崩壊させるだけに留まっている。恐らくは幼い頃に家族を殺めたトラウマからであると考えられるが、まさか転弧に同じことをさせるわけにはいかなかった。
「(でも心詠さんの言う通り、このまま同じことを繰り返しても埒があかなさそうだ。大切な人を手にかけてしまうイメージを…いやダメだ、いくらなんでも無慈悲すぎる。ただでさえ好き好んで訓練してる訳じゃないだろうに、そこまでさせられないよ)」
「まあ、今やれることをやっていこうぜ。あんまり先のことばっか考えたってしょうがねえだろ」
「それもそうですね。とりあえず今日の所は普段通り自分で制御する練習をしておきましょう」
「はい!」
「…ふふっ」
元気な声を返す転弧を見て、千雨は一先ず彼との訓練に集中することにした。
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「しかしあの時は柄にもなく驚いた。まさかあんなやり方で『リサイクル』に勝ってしまうとはね」
閑散とした町の一角。巨悪は一人、数ヶ月程前の光景を思い返す。
「ちょっとだけ心が揺れたよ。大して興味のない個性だったけれど、彼女が持っているといやに面白く見える。隣の芝生はなんとやらだ。まあそれはともかくとして…『リサイクル』は反省点が多かったかな?あまり良い個性を渡してあげても勿体ないと思って不要品を処分してしまうつもりで作ったのがいけなかった。こればかりはどうしても僕の悪癖が出てしまうね。ドクターのような頭脳と感性を持ち合わせていないのが悔やまれる」
彼が辿り着いたのは、暗く薄汚れた路地裏。淀んだ空気や漂う悪臭を気にも止めず、ゆっくりと奥へ進んでいく。
「これからは無意味に個性を与えないように気をつけるとしようか。パズルのように最適な組み合わせを見つけて当てはめるというのもまた一興…次はどんなものがいいかな?今から楽しみだ。…さて」
独り言を終えた巨悪は、小さく座り込む少年の前に立つ。
「誰も…たすけてくれなかったんだね。辛かったね」
それは心からの台詞か、あるいはただの甘言か。
「『ヒーローが』『そのうちヒーローが』。皆そうやって君を見ないフリしたんだね。一体誰がこんな世の中にしてしまったんだろう?」
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