ハーメルン
すべては君のために
子供の癇癪

 
 日本の何処かにある無人島。千雨と転弧はその島の森にひっそりと佇む邸宅の中に入っていく。
 
 「…ここは?」
 「私の隠れ家みたいなもんだよ。後ろめたいことをするにはもってこいだ」
 「!?お、お姉さんやっぱり…」
 「あ、ああ!違うよ、別に悪いことしようってわけじゃ…いや悪いことは現在進行形でしてるんだけど…とにかく!私はヒーローなんだ。君が心配するようなことは起きないしするつもりもないからさ」
 「ヒ、ヒーローだったの…!?」
 「結構傷つく反応してくれるね…」

 信じられないといった風に驚く転弧に対し、冗談交じりに千雨が返す。

 「…お父さんのことは嫌い?」
 「大っ嫌い。できるなら…」
 「それ以上はダメ。わかるでしょ?」
 「…うん」
 「外に出よっか。まずは()()を止めてやらないと」

 そう言って千雨が視線を向けたのは転弧の両手。元々塵という形を取ることのできた彼女の身体は転弧の「崩壊」に晒されてもダメージを受けることはなかった。…もっとも、殆どのダメージを塵化することで無かったことにできる千雨には、仮に崩壊が有効であっても問題ないという確信があったのだが。しかし、彼女以外が今の転弧の手に触れればたちまちバラバラにされてしまうだろう。

 「木に触れてみて」
 「うん。…あぁっ!」
 「おっと。やっぱりまだ発動したままか…自分で止められそう?」
 「わ、わかんない…。どうすればいいの?全然わかんないよ…」

 案の定、転弧が触れた木はあっという間に砕けてしまう。伝播が広がらない内に崩れつつある木を千雨は塵に変えながら発動を止められるかを転弧に問うが、彼自身にも止め方は分からないらしい。

 「…多分原因は君のお父さんに対する感情だと思うんだ」
 「!」
 「私が君の個性について教えて…そのすぐ後にお父さんの姿を見て…思ってしまったんじゃない?『この力があれば』ってさ」

 「原作」では弧太郎を殺害することで一旦崩壊は止んでいたはずだ、と千雨は記憶を辿る。恐らく彼女が個性について言及することを避けるか、あるいは弧太郎があの時姿を見せることがなければすでに個性の発動は止んでいただろう。しかし転弧は父親を殺害できるかもしれないという可能性に気づいてしまった。それでも…

 「…ぼ、僕」
 「わかってるよ。あの瞬間はともかく、今は本気でそう思ってるわけじゃないだろう?大丈夫だ。しばらく私と個性の制御を学んで…ついでに心を落ち着かせる練習でもしよう。まあ、カウンセリングみたいなことはできないけど…要は『お父さんなんてどうでもいいや』みたいに思えるようにすれば良いんだよ」

 幼い子供が感情に任せて強い言葉を吐いたり手を出してしまったりすることは良くあること。時間をかけて、ゆっくりと…千雨はあくまでも転弧を穏やかな方向に導くことを目的としていた。

 「さて、もう遅いし…今日はもう寝よう。寝て起きたら個性は止まってるはずさ」

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