ハーメルン
妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】
降臨
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あれから新しい住人が増えた。
最初にその姿を見た時は我が目を疑い、二度見した後で九回くらい頭を下げた。仮に目の前に王様が居てもここまではしない。
その様子を見て剛盾や紅梓に正気を疑われ、あるいは病気ではないかと勘違いされたのも笑って許せる。
「銀や。息災にしておったか?」
「はい。娘々もお変わりなく」
どうみても娘と言う年齢ではないが口にしてはならない。
大した魔力も持っていないはずだが、それは全力で僕のせいなので疑うのも失礼な事だろう。
そう、我が神でありこの世界に転生させてくれた九天玄女さま(分霊)である。人形の様なサイズで浮かび上がる……というより、ホログラフのように見えている儚い存在だ。しかしこの時をどれほど待ちわびた事か。
「ところでな。アレはなんぞ?」
「……ああ。この間、新しい住人になったオオトカゲです。名前はまだ無かったかな」
娘々が口元を抑え、もう片方の手でナニカを指し示す。
そこに居たのは銭湯から流れて来る廃湯(?)に浸かっているオオトカゲであった。
乾燥に弱いので水や湿気とか色々試した結果、温めのお風呂でマッタリと寛ぐことが判った。頭カピバラかよと言ってはいけない。テスト期間中であり、専用のお風呂を用意する手間も惜しいので汚れたお湯を軽く濾過して浴びせている。
「左様か。しかし何時の世にも何処かで見た貌が居るのう。その昔、あのような霊獣に乗っておったものよ」
「そうえいばあちらの悪……女神は騎獣に乗っておりましたね」
アスタロトは竜に、ゴモリーはラクダに乗っていたんだっけか?
四大の魔王たる竜姫公アスタロトはメソポタミアでは女神であり、元もとは獅子を従えていると言う話もある。ゴモリーのほうは良く知らないが、初代騎獣が魔王マルコシアスだという話なので原典では相当に高位の存在だろう。
いずれにせよおっかない……美しい女神さまには獣が良く似合うのかもしれない。
「何匹か押し付けら……いただきましたので、お乗りになるのだれば鞍を誂えますが?」
「も少し力が貯えられればそれも良かろうな。どのような経緯ぞ? 愉快ゆえ教えてたもれ」
あまり楽しい思い出ではないが、探られたら簡単に判るので喋ってしまおう。
神に嘘は効かないわけでは無いが、嘘を吐くのは得意ではないし、そもそもバレたら大変である。
先に一行で要約すると、エルフに畜獣化を押し付けられたのである。
『つがいで何匹か送るから、飼い方が判ったら教えてだってさ』
『……なんか便利に使われてる気がするなあ』
オオトカゲが家畜化できるならエルフにも利益があるからと無償で提供すると言われたのだ。
紅梓がご機嫌なのはきっとその辺の交渉をまとめたら、捕り物をした時に僕らに支払った雇用料を、エルフ族が代わりに出すとか言われてるんじゃないだろうか?
こちらとしても無償で家畜が増える上に、その問題を他者と分割協議できるなら悪い話では無いので断るはずもない。まさしく掌の上で踊らされている感がある。
『馬ほど速くなくて寒冷地や乾燥に弱い。代わりに近場では機敏な……ロバってとこかな。あんまり戦闘に向かないし』
期待していた程の能力をオオトカゲは持っていなかった。
六本脚の機敏さを活かして逃げ回っていたのも臆病だからゆえで、軍馬の代わりに使うのは難しそうだ。得をしたのは生態を知ることができたエルフくらいのものだろう。
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