ハーメルン
妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】
目下の目標


 今回の件は非常に難しい。
大抵の魔物は系統立てて相手の能力を分析し、ちゃんと作戦を建てれば倒せない相手ではないのだ。しかしその作戦を実行できるかが問題である。

何しろ協力してくれるという騎士相手に、自分では活躍するなと言うのに近い事を要求するのだから。

「重要なのは精霊に攻撃する人物を守り切る事です。ご自分を守る事が他者を守るよりも得意であるならば、貴方が攻撃役として的確なのですが……」
「いや、流石に他人を守る方が得意ではある。あるが……」
 この騎士は近侍だと言っていた。要するに近衛兵だ。
技としてはカバーリングを中心に覚え、一般教養と並行して探知系の訓練も積んでいるはずだ。そんな人をフルに活用するならば、攻撃もさせるよりは防御専念させた方が確実である。

とはいえ騎士に活躍するなと言うのは無茶振りなので、彼の教養を逆用して説得しなければならない。

「古代の戦車では一人が槍ないし弓を使い、もう一人が盾を使いました。この作戦はそれをヒントにしたものです。さしずめタンク役とアタッカー役というべきでしょうか」
「なるほど……確かに理に適っている」
 彼の頭の中では理論的に正しいと判っているはずだ。
自分が盾を振り回して他人を守れば良いと。しかし騎士としてのプライドというか、これまでの生き方が邪魔をする。

そこで彼が知っている教養の中から、当時は正しかったという手法を用意した。戦車戦ならば盾持ちが攻撃役を守るのは当然なのだから。

「とはいえ卿の立場を考えれば、王族が使う三人乗りで主人を守る役目。おいそれと他人を守れとは言えないのですが……」
 だが感情的と知識は別だ。
理論的には既に納得している事を補強したに過ぎない。感情で否定しているのであれば、この段階で頷くことも難しいだろう。

だから戦車の話は理論の補強ではなく、次の言葉を出すためだった。

「ここは主人の名誉を高めるためにこそ守ると考えていただけませんでしょうか? 無理にとは申しませんが」
 自ら戦わない王族の場合、盾役・御者役を部下に貸すこともある。
特に腕の良い御者などは本陣に置いておくよりも、腕利きの射手に付けて戦闘に参加させる事もあったそうだ。戦車の話を出したのはこういう流れ持ち込むためである。

まあ精霊に攻撃可能な人間と防御が得意な人間を見つけるだけなら、他の人間でも良いのは確かだ。手間ではあるが無理にこの騎士を説得する必要もないと言えるのだけれど。

「そこまで言われたら引き下がれぬではないか。節を曲げても良いと先に言ったのは私だしな」
「ありがとうございます! 攻撃役は探せる範囲で一番の人間になるでしょうし、共にその人物を守りましょう」
 これで一手間省けた。後は傭兵なり味方騎士の中で一番の腕利きを探すだけだ。
自分を守りつつ、代表者一人を守るだけならばそう難しい作業じゃない。そう思っていた所、彼は微妙な顔をし始めた。

目の動きや額の皺で内心が判るような能力は持っていないが、流れでだいたい想像できる。おそらくは攻撃役に心辺りがあるのだ。そしてそいつはきっと推薦するのも躊躇われるような偏屈に違いない。

「そういう事ならば……幾人か心当たりが居る。他にも暫く会っておらん者の中には、もしかしたら誰ぞ良い術を覚えているかもしれん」

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