第十四話 祖国は危機にあり ~ 銀河帝国北朝の場合
参考資料1 銀河帝国星系図
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参考資料2 銀河帝国北軍宇宙艦隊 戦闘序列
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宇宙暦798年、帝国暦489年7月下旬──
どんな世の中にも例外は存在する。例え、銀河帝国(北朝)首都、皇帝陛下のおわします新無憂宮においても──
当たり前のことではあるが、新無憂宮の中では、厳密なドレスコードが存在する。使用人、出入りの業者、警備員、いずれも身元の調査が都度厳密に行われる他、着用する衣服は厳密に定められている(そしてそれが表向き曖昧なことが、『障壁』なのであるがこの話はここまで)
新無憂宮を公用で訪れる人も同様だ。最低限礼服か礼装の軍服、時代錯誤も甚だしい(という人もいる)宮廷服を着用しないと、例え身元が明らかであっても叩き出される。本来はそのはずだ。
だが例外は存在する。新無憂宮を多少よれの入ったビジネススーツ姿でうろついても叩き出されない人物は存在する。その人物とは──
「どうですか宰相殿!素晴らしい威容ではありませんかな!」
帝国宰相の執務室に甲高い声が響き渡った。7月だというのに窓という窓は閉め切られ、照明はオフになっている。中央の小さなテーブルの上には映写用デバイスが置かれ、執務室の中央に3Dの映像が浮かび上がっていた。
別にこの時代、3D映写デバイスは珍しいものではない。珍しいものといえば、映っている映像の方である。
「以前よりお話しておりました、我が社の新型戦艦、仮称艦名『ブリュンヒルト』であります!」
執務室では、1メートルにならんとする宇宙船の映像が浮かび上がっていた。純白の船体は、それまでの宇宙戦艦にあった箱型の船体に必要な構造物を付けたような無骨さは見られない。白い円錐のような、曲線をふんだんに用いたフォルムだった。スラスター、アンテナ、砲塔といった、戦闘艦に必要な装備も、自らを過剰にアピールしたりはしない。船体の中に包み込まれているような感じでひっそりと配置されている。宇宙に浮かぶ白鳥、一言で言えばそんな優美な艦体であった。
「単に美しさを追求したわけではありません。門閥貴族が乗るフネではありませんからな。優美なように見えて、獰猛な牙も隠し持っております。中性子ビーム砲は12門、通常の宇宙戦艦の1.5倍あります。ミサイルVLSは船腹にあり、同時に10個の目標を攻撃可能です。レールガン発射装置も、もちろん備えております。おっと、武人の蛮用とかそういうことを考えておりますかな?我がラインフォルトの技術陣は、大いに努力をしてくれました。埋め込み式の武装を多用しましたが、弾薬の補給、整備、発射時の工数、いずれも通常戦艦のそれと同等か下回っておりますぞ!」
先ほどから長広舌を振るっているのは、ラインフォルト財閥の総帥、フランツ・ラインフォルトである。中肉中背と言うにはやや痩せた体つき、細い瞳に眼鏡とぼさぼさの黒髪、胸元を開けたシャツと白い夏向きのスーツ。年齢は40代後半だが、外見はそれより少し若く見える。この男こそが、新無憂宮をビジネススーツ姿で闊歩できる「例外」の男であった。
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