第十五話 祖国は危機にあり ~ 銀河帝国南朝の場合
参考資料1 銀河帝国星系図
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参考資料2 銀河帝国南軍宇宙艦隊 戦闘序列
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宇宙暦798年、帝国暦489年8月中旬──
銀河帝国南朝、キフォイザー星域ガルミッシュ要塞は、南朝が保持する宇宙要塞で、ガイエスブルク要塞に次ぐ重要な要塞である。建造時期は、アムリッツァ要塞、ガイエスブルク要塞よりやや前だが、宇宙港の機能、自己防衛機能は十分すぎるほどにある。
そして、南朝にとって欠くべからざる存在である。そもそもキフォイザー星域は、南朝首都のブラウンシュヴァイク星域と隣接しているのである。ここが失陥すると、ブラウンシュヴァイク星域は、オーディンから来る艦隊、シャンタウから来る艦隊の二つで挟撃されることになるわけだ。何としても保持しなければならない。
昨年の後半から今年のはじめにかけて、この星域は大規模な攻防戦の舞台となった。帝国北軍が今度こそとばかりに、この星域に攻勢を仕掛けていた。南朝も総力をあげて防衛につとめ、どうにかこうにか撃退に成功した。いや、北軍が攻勢に飽きて撤退したと言った方が適切かもしれない。今年になってからの、どうにも統制の取れない散発的な攻撃を見ていると、そうとしか思えないのである。
この要塞には、南軍の二個艦隊が駐留している。ウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ大将率いる第五艦隊と、アーダルベルト・フォン・ファーレンハイト少将率いる第七艦隊であった。後者は司令官の戦死により、新司令官として着任したばかりであった。本来は四個艦隊であるが、状態が比較的良い第六艦隊と第八艦隊は、フェザーン方面に進出し情報収集にあたっている。
そのガルミッシュ要塞のメルカッツの私室に、ファーレンハイトが入ってきた。お互い、下級貴族出身のたたき上げ軍人であるため、年齢差はあったが二人はウマが合った。
「よく来てくれた」
メルカッツはそう言うと、従兵に目くばせした。応接用テーブルに小さなショットグラスを二つ置くと、そこにグラス半分ほど、どろっとした透明の液体を注ぐ。メルカッツがグラスを一つ取ると、ファーレンハイトも当然のようにもう一つを手に取った。
「再会を祝して」
「祝して」
二人は杯を飲み干した。中身はアルコール度数の高い火酒である。まだ人類が地球という星のみで生活していた頃、寒い海の上で暖をとるための、船乗りの風習であったが、今は何の意味もない儀式のようなものだ。でも、メルカッツもファーレンハイトもこのような『船乗り』の風習にこだわる方だった。もちろん、量が少ないから酔っ払うことはない。従兵は飲み干したグラスを素早く片付けると、コーヒーを二人に置いて出ていった。
そもそも二人は同じ艦隊の上司と部下だった。メルカッツは第五艦隊の司令官、ファーレンハイトは副司令官だった。ただ、補給その他をめぐるいざこざで、ファーレンハイトはメルカッツが止めるのも聞かず、上層部に直言を繰り返し、その報復としてフェザーンの航路帯警備司令という閑職に飛ばされたのである。本来は、もう少し早く、第七艦隊の司令官になる予定だった。ただ、昨年から今年にかけての北軍攻勢により第七艦隊は甚大な損害を被り、司令官も戦死してしまったため、ファーレンハイトとしては命拾いしたかっこうになる。
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