ハーメルン
銀河英雄伝説 ファニー・ウォー
第四話 新型戦艦ヨブ・トリューニヒト


 同じく冒険の結果、死にかけたヤンの方は特に褒章はなかった。逆に処分もなかった。
 市民を守るのが軍、そういう建前だからなのだが、それだけではなかった。



「少佐……本当にそれでいいのかね」

「はい。自分は元々、退役するつもりでした。就職先も決まっています(嘘)。ですが、ちょっといろいろありまして、軍がお節介を焼きたがるので。何もない方がいいのです」

「……君が本当にそう思っているなら、それでいいが。だが、褒賞は受け取っておいたほうがいいと思うのだがね」

「いいのですよ。公僕は市民に奉仕する、それでいいのです。それに、これ以上昇進しても、自分の身の丈に合いません」

「ならば、国防委員会から通達を出すことにしよう。士官のキャリアプランについては、本人の希望を尊重するように。それだけ書けば効果があるはずだ」

「有難くあります」
 シャトルの中でヤンとトリューニヒトが交わした約束がそれだった。まぁ、SPが殺害された治安警察と、護民のヒーロー憲兵隊、という図式となれば、治安警察と憲兵隊のしこりはより大きなものになったろうから、その点でも都合が良かった。 

 

 今日は、新年になってから初めてのまともな休日である。土日返上で新年このかた二週間を過ごしてきたが、ヤンにとっては、今日こそが新年、その始まりだった。というわけで、ヤンは一人きりの新年を祝おうとしている。テーブルにはスパークリングワインが一瓶、そしてシャンパングラスが一つ。リビングボードには、それまで倉庫の中に埋もれていた万暦赤絵が埃を払って置いてある。ヤンが探し出したものだった。

 ヤンはワインの栓を抜き、シャンパングラスに注いだ。そして、グラスを掲げる。

「では、ヨブ・トリューニヒト氏に二回万歳をしよう。一つは、私のキャリアプランの実現支援のために。そして二つ目は」

 ヤンはスパークリングワインのラベルを見つめた。惑星カッシナで生産される最高級のスパークリングワイン、手に入れようと思ったら1本200ディナールは下らないだろう。トリューニヒトの秘書ズの一人が、わざわざヤンの官舎を訪れ、押し付けるように置いていったものだ。

「このスパークリングワインに。アッテンボローよ。これは独占させてもらうよ」

 ヤンは、スパークリングワインを一息で飲み干した。

「だが、万歳は二回で十分だよな」

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