ハーメルン
銀河英雄伝説 ファニー・ウォー
第四話 新型戦艦ヨブ・トリューニヒト


「まぁた。出世が嬉しくない人間なんて、この世にいやしませんよ。このまま軍人やってればいいじゃないですか。天職なんですよ。て・ん・しょ・く」
 そう言われてヤンはげんなりした。アッテンボローはもう3杯目を空にしようとしている。きょろきょろしているのは、新しいワインかビールを物色しているのだろうか。結局スパークリングワインはアッテンボローがほとんど飲んでしまった。そのワインは他と違って結構なお値段するやつなんだがな。ヤンは残念に思ったが、後の祭りである。



 ヤン曰く、宇宙歴796年は厄年だった。大過なく憲兵隊の職務を勤め上げ、大学卒業資格を取ったら(順調にいけば797年の7月が卒業である)、軍隊を辞めて教師にでもなる、それが前から決めていたキャリアプラン、そのはずだった。

 それが危機に瀕しようとしている。春は、ユリアン・ミンツ少年の事件(どうやらミンツ少年は、あれから正式にプロ入りしたらしい)、空母コロッサスでの演習事故騒ぎ、秋になったらなったでゴールドバーグ老人の怪事件と、事件事故の方がヤンを捕らえて離さない、そんな感じになっている。そして、事件を何とか片付けると、憲兵隊内でヤンの評価が上がっていく、というスパイラルになっているわけである。

 そうすると何が起きるか。

「君は自分の才能をもっと活かすべきだ。憲兵隊の総務課ではなく、刑事畑を指揮してみるのはどうかね。あるいは艦隊勤務の適性があるかもしれんぞ。軍指揮官にとって、敵の心理を読み取るのは必須の才能だ。もちろん昇進だって期待できるぞ」
 ヤンはパエッタの声真似をして、ぶるぶると背筋を震わせた。年末にそのようなことをパエッタに言われたのである。年末の人事面接で退役の撤回または延長を薦められ、パエッタ司令に抗議に行ったらこの仕打ちである。

「先輩なら刑事課だってやれますよ。そんなに軍がお嫌なら、治安警察に掛け合って引き取ってもらうというのはどうですか?」

「治安警察がそんなの認めると思うのかい」
 アッテンボローは何も言わず、肩をすくめた。憲兵隊よりずっと大きく、複雑な組織である治安警察には、憲兵隊とはまた違った文化というものがある。ヤンがそこでうまくやっていく保証など何もない。

「まぁまぁ、そんなのくよくよしていてもしょうがない。今日くらいは楽しまないと。酒に対してはまさに歌うべし、でしたでしょ?」
 アッテンボローはヤンのグラスにワインを注ぎこんだ。どうやら、一日居候としての義理を、賑やかし担当として果たそうとしているらしかった。



宇宙歴797年1月4日、憲兵隊本部総務課ーー

「皆さん、新年おめでとう。では、給料分の仕事を果たしてくれ」

 ヤンのスピーチは「なるべく早く、なるべく短く」がモットーだ。スピーチというのはTPOに即して、とはよく言われるけど、ヤンはそれを顧みることなどない。まぁ、ラオ大尉以下課員の方もとっくに慣れっこである。何しろ、新年からやることは山のように積もっているのだ。新年の休暇が取れただけまだましと言わねばならない。

 とりあえずの今のヤン(と総務部企画第三課)の悩みは、新年早々に行われる会合、同盟軍新装備選定会議、である。



 同盟軍新装備選定会議とは何か?

 まぁ読んで字の如く、なのだが同盟軍の装備全般に関する見直しと新規選定を行う会議である。年によって規模はかなり変わってくるけど、年明けすぐに開催される、ということだけは決まっている。何故なら、予算編成に関連する話だからである。装備といっても戦艦や空母といった戦闘ハードウェアだけではない。軍服、ボールペン、コーヒー用紙コップに至るまでの全てが対象となる。

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