第七話 フェザーンへ!
宇宙歴797年8月15日 7:00ーー
ピンポンパンポーン
「ご乗船の皆様にご案内申し上げます。この度は、黄金旅程旅客船株式会社、宝船号にご乗船頂き、誠にありがとうございました。
本船は、本日10時に終点、フェザーン国際宇宙港、第5ターミナルに到着致します。フェザーン行政府の本日の天気は晴れ、気温は摂氏29度でございます。皆様、下船の準備をしてお待ちください。なお、通関の事前手続き受付は本日9時までとなっております。お手続きがお済みでない方は急ぎ、インフォメーションセンターまでご連絡下さい。繰り返します……」
寝ぼけまなこのヤンが完全に目を覚ましたのは、旅客船のアナウンスを聞いたからだった。惑星エル・ファシルからフェザーン行きの旅客船に乗って20日ほど。旅も終わりを迎えようとしている。
時を遡るほど二か月以上前ーー
「少佐、惑星フェザーンに興味はないかね?」
「フェザーン……でありますか」
ヤンはパエッタの提案に当惑しながらも答えた。
「フェザーン大使館の駐在武官に、丁度空きがあるそうだ。ハイネセンに転任した士官の後釜という感じだな。階級的にも問題ないそうだし、業務も大した事ないらしい。椅子に座って、新聞を読んでいれば事足りるものだ。そこで、一年ほど過ごせばほとぼりも冷めるだろう。後は君の好きにしたらいい」
「あの、そのオファーの詳細は」
「この話に興味があるのかね?」
「あ、いや、詳細を検討したいと……」
「そうか。なら、資料を送っておく。近いうちに返事をもらいたい。いいかね」
そう言われたので、ヤンははいと答えて査問会室を出ていった。もらった資料は量も少なければ内容も少なかった。大使館付特務支援課課長補佐、とあったが、特務支援課なるものの正体が分からない。ウェブサイトをあさっても情報はほとんど出てこなかった。どうも、同盟においてフェザーン大使館というものがあまり目立つ存在ではないらしく、それが情報の貧弱さに貢献しているようだった。
考えてみれば当然である。ヤンの知る限り、フェザーンにおいて同盟がやっている仕事は、もちろんフェザーン資本との取引が第一だが、第二はフェザーンを仲介した帝国との取引である。もちろん表向き、フェザーンの会社に民生物資を卸している、ということになっているのだが(さすがに同盟も帝国に武器を流すことはしていない。表向き)、その行き先が帝国の南北どちらか、であることはフェザーンで調査をしていればすぐ分かることである。ちなみにそのような調査報道には、軍が規制をかけているので、同盟内では表向きになることはない。一応。
フェザーンとの付き合いということで、そういう業務に従事しているラップやクラインシュタイガーにもそれとなく聞いてみたが、大した情報は得られなかった。第一、転属は正式に決まっていない。内示の情報が漏れたとあれば、どんなペナルティが降りかかってくるかわかったものではない。
三日ほど迷った結果、ヤンはパエッタのオファーを受けることにした。退役が先延ばしになるのは遺憾ではあるが、交換条件として俸給を2段階上げてくれるということだったので、しぶしぶながら受け入れることにした。ちなみに、退役後の軍人恩給の額面は、軍隊での勤務年数と最終的な俸給段階の2つで決まることになっている。
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